「その必要はなかろう。あいつならば、必ず為してくれる。最初から分かっていたことだ」
葛野を離れて十年。
甚夜は拠点を江戸に移していた。「鬼が出る」と言う噂を聞きつけ、それを斬る浪人と言う体裁で。
鬼の噂を聞けば調査し、危険であれば斬る。
まだ迷いの中にあって、それでも自分に出来る事をしながら必死に生きている。
最初の商家でのエピソード「鬼の娘」が好きなんですよねぇ。
その商家の主人に借りがあるという事もあって、依頼を受けた甚夜。
護衛対象の娘からは、最初「帰ってもらって」なんて言われていましたが。
しっかり腕前を見せつけて、事態を解決してましたし。
主人と甚夜の、多くは語らないながらも、信頼している関係がとてもいい味出してます。
巻末の短編「九段坂呪い宵」も、主人からの依頼での調査で、予想外の情報が出てきたりして楽しめました。
甚夜は鬼故に成長しない。それを怪しまれないように拠点を変えながら、活動しています。
彼を心配し忠告してくれる相手とも出会ってましたし。
「……だが私にはそれしかない」と言われた後も会話を続け、「ほら、“それしかない”なんて嘘ですよ」と返す彼女が素敵。
始まりの葛野での悲劇を想えば、適切ではないかもしれませんが……甚夜はなんだかんだで、縁に恵まれていると思います。
どうしようもなく傷付いた彼が、少しずつ傷を癒していくための時間を過ごす感じでしたね。
辻斬り騒動なんかは、哀しみが募る話ではありましたが。友人と、上手い酒を飲めたという記憶も一つの救いだとは思うんですよね。
江戸編の続きとなる3巻は、来年2月ごろ予定だそうで。まだまだ追いつけますから、多くの出会いが繋がっていく、この物語をどうか多くの人に読んでほしい。