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「うん、そういうと思った。君は優しいね。毒みたいに優しい」
平然と答える風乃。それを聞いて洸平は、溜息を吐いた。
「君は、人の醜い所を否定しない。受け入れる。手を差し伸べる。だから君に相談した人は破滅する。君に相談すると、君にそんなつもりはなくても、背中を押されるんだ。ここの奥底の、一番醜くて、一番狂ったところを、君の言葉が掘り起こす」
洸平は言う。風乃は何も言わない。
「だから、君を責めると、きっと僕も破滅する」


『断章のグリム』好きなので迷わず買っていた・・・んですが。
その割に積読の山に埋もれてました。
埋まっている間に二巻出てしまったので慌てて読了。
書下ろしの「シンデレラ」、「ヘンゼルとグレーテル」。断章のグリムに収録されていた「金の卵を産むめんどり」。
三話が収録されています。

いやー相変わらずの甲田節といいますか。
タイトルからして風乃がいるし、いつも通りロクな目には合わないんだろうなぁ、と思ってまいましたが。
安定して暗い、エグい、グロい。
けど、短編3作掲載な感じで、一つ一つが短いので、その分いつもよりは抑え目かな、と。
甲田作品の入り口としては案外いいんじゃないだろうか。
「断章」という異能がない分、より人間の醜さがすさまじくなっているというも見方もありますが。

父親は単身赴任で遠くにあり、母と姉の三人で暮らしている夕子。
姉がいつも優先され、自分の願いは通らない。そんな家に暮らしていた彼女は、我慢を重ねて、なんとか生活してきていた。
「……シンデレラは、本当はシンデレラのお父さんが救うべきだったわ」

風乃に相談し、我慢し、怯えながらもなんとか行動を起こした瞬間に足を掬われて。

彼女たちは決して、悪くはなかった。
埒外の幸福を望んだわけではなく、手の内に収まるようなちっぽけな願いを持っていただけだった。
けれど、ちっぽけであるそれらは、彼女たちにとって最後の砦でもあり、それを踏みにじられた瞬間、最後の一線を越えてしまった瞬間に、零れ落ちて、壊れていってしまっただけで。
境界線上にいて、見守るだけの風乃がどうしようもなく恐ろしい。
風乃は少女たちと偶々あって悩みを聞いて、自分の意見を述べただけなので、彼女は彼女で悪いことをしているわけではないけれど……冒頭引用したように、「毒のように優しい」少女でもあるので。
その影響を受けて壊れ方が加速した面もあるわけで。
いや、相変わらずの筆致で安心したといいますか、さすがとしか言えない。