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「困ってるのに、誰にも頼れないのはしんどいから」

中々面白かった。
ある日、主人公の梓川咲太は、図書館でバニーガールの格好をした女子を発見する。
それは、同じ高校に通う先輩で、活動を休止している人気タレントである桜島麻衣だった。
彼女によれば、ここ数日「彼女の姿が周囲に見えない」という状態になることがあって、それの検証をしていたのだとか。
バニーガールの格好をしている人がいたら、思わず二度見するだろうから試金石としての格好だったらしいですけど。なぜそこでバニーガールなのか。

一方、ネットでは「思春期症候群」という都市伝説が広まっていた。
他人の心の声が聞こえたとか、誰それの未来が見えたとか、オカルトじみた出来事が起こるとか。
ま、都市伝説なので当然市民権を得ているわけでもなく、精神科医に見せても「多感故に不安定な心が見せる思い込み」だとばっさり切り捨てられるような自称。
けれど咲太はそれの実在を信じていた。
なぜなら、妹が過去その思春期症候群でしか説明できないような状況に陥っていたから。
いじめを受けて引きこもりになった妹は、SNSでの悪口を見ると、身体に傷が突然浮かびあがる症状を見せていた。
周囲の人は誰も信じれくれず、母も、妹の置かれた状況を受け入れられず離れて暮らすような状態になってましたが。

妹の影響か、咲太にも怪我が浮かんだことがあり病院に搬送されたこともあった。
その様子に尾ひれがついて「同級生を病院送りにした奴」という、どうにも近寄りがたい存在として咲太は認識されていた。
咲太は咲太で、そんな実体のない『空気』に喧嘩を売るなんて馬鹿げていると、交流を取ろうとはせず、自分の言葉を信じてくれた二人だけを友人と呼び、日々を過ごしていた。
しれっと書かれているけど、中々重いというか。そりゃあこんな捻くれた行動もするかなぁ、という感じ。
デリカシーない発言をすることもありますし。
けど、それでも彼は優しいんですよね。付き合いを極端に絞っている分、その大切な誰かのためになら『空気』とだって戦って見せる。行動を起こせるというのはすごいことだと思います。

最初は、一部の地域で見えないだけだった麻衣。
学校では見える人も多く、普通に通うこともできた。
けれど、見えなくなる時間はどんどん増え、買い物もままならい状況に。
しまいには存在していたことすら認識されないようになっていって、アレは中々辛い。
そして咲太も一度は忘れてしまうモノの、断片は引っかかっていて、それを活用して、消えた麻衣を取り戻した。
交流を通して、距離を縮めた二人。告白して、付き合うことになったと思ったら……
エピローグで、次回への引き。また新しい思春期症候群か、告白が成功した日の「昨日の朝」に戻っていたのだった、と。

「思春期症候群」っていう異質な要素を入れながらも、しっかり真っ当な青春をしていたといいますか。
咲太が結構好きですよ。自分なりの芯がある感じで。心臓が鉄でできているような言動・行動は真似できない。