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バーバ=ヤガーの挑発を、エリザヴェータは笑い飛ばした。
「おまえの言う通りよ。ずいぶんと無様な姿を見せてしまったわ」
エリザヴェータの怒りを反映し、黒鞭の戦端が激しい雷光を帯びて輝く。
「だから、おまえを滅ぼして何もかも取り戻すことに決めたの」


記憶を失い、ウルスとしてエリザヴェータの下で過ごしていたティグル。
見知らぬ森の中でであったのは、ティグルの消息を探っていた他国の密偵で。
一方で、ティグルの姿を求めて、マスハスやティッタ、リムもルヴーシュの街に到着して。

エリザヴェータが本当にいい子だなぁ、という感じです。
幼少期の経験から言えばもっと歪んでしまっていてもおかしくないだろうに。
魔物の力を借りているようだ、っていう情報が出てきた当初はすわ敵側のキャラクターなのかと思っていましたが。
今回それを振り払って、戦姫として敵と対峙した姿は格好良かった。
というか、幼少期にエレンとあっていて影響を受けて、立ち向かう強さをそこから学んで。
そうして戦姫となった果てに、巡り合わせが悪く、仲が険悪になっていたのを彼女はいったいどう思っていたのだろうか。

バーバ=ヤガーを打倒するために。
前回、自分のところの騎士に攻撃を受けたこともあり、一人で敵を探していますが。
不器用だけど、彼女は結構誇り高いんですよね。もうちょっと我が侭になっても罰は当たらないと思うがなぁ。
エレンなんか結構自由な性分だと思うんですけどね。
オルガみたいに旅に出ちゃう戦姫もいるわけですし、もうちょっと軽く考えてもいいんじゃないかと。
……オルガがまるで考えなしみたいに見えますが、彼女は彼女で悩んでたんですがね。

そして騒動の中でティグルの記憶は無事に戻り。
客分だったのに使者として派遣され、行方不明になってしまったとか、中々ない問題だと思います。
そのこともあってマスハスはヴィクトール王と謁見し、ティグルの処遇について話す予定だそうですし。
10巻をもって、第二部が終了だとか。一席が空いてしまった問題こそあれど、あとがきに遭った通り、戦姫たちについて描かれていたというのは疑いの余地なし。
黒弓やら魔弾の王については第三部での予定だってことですが……随分と贅沢なつくりをしているよなぁ、と思います。
これが普通だったら10巻行くまでに、黒弓とかについてはとっとと明かされたりして、一つ大きな事件を解決したところで、シリーズ終わっててもおかしくないと思います。

10巻まで書いてなお、謎も問題も多く残っています。
それこそティグルの黒弓だったり、タイトルの魔弾の王という存在だったり、暗躍する魔物たちの目的だったり。
あるいは、他国の間諜の存在や、裏で動いている上に魔物たちの事情を知っているようなガヌロン。戦姫でありながら、暗躍して事態をかき回しているヴァレンティナのことも忘れてはいけないでしょう。
これらがどんな結末を導くのか、今から気になって仕方がないです。

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉10 (MF文庫J)
川口 士
KADOKAWA/メディアファクトリー
2014-10-23