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『暖かく安全な場所からあえて抜け出ることは容易ではない』
(略)
『それを、あの二人は殻から抜け出した。だから任しただけのことだ。案ずることもない』
「二人って、誰と誰のこと?」
『少女と、約束の少年。あの二人はそれに十数年を費やしたが、まあ仕方あるまい』


読み返したついでに記事作成。
細音啓さんの原点。他の作品も好きなんですけど、この作品が一番好きかもしれない。
名詠式。
呼び出したいものと同色の触媒と、専用の詠をもって、何かを呼び出す術式。
赤い絵具で花や鳥を呼び出したり。上位の詠唱になると、ワイバーンとか攻撃力ある危険な名詠生物もいるんですが。

そういう名詠式を学ぶ学校。
赤、青、黄、緑、白。5色の名詠。
一つを極めるのに十年以上かかると言われている中、ただ一人、全てをマスターした虹色名詠士なんかも登場するんですが。
彼はキーパーソンではあっても、主人公じゃないんですよね。
既にある程度、完成してしまっているから。

この作品の主人公は、夜色名詠という存在しなかった名詠式を学ぶ、ネイトという少年。
異端の名詠は、少年の母親が作り上げ、彼が継いだもの。
最も今なお勉強中で、使いこなすまでは至っていませんが。
そんな少年が、学校へとやってきて、クルーエルという優しい少女と出会い。

ネイトはまだ十三歳だという事もあって、まだまだ未熟です。
でも、母の残した名詠と真摯に向き合い、努力を続けている姿勢は、称賛されて然るべきだと思うんですよね。
才能の無さとか、母との約束を交わした相手とか、いろいろ分からないことがありながら、迷いながらも、きちんと積み重ねをしている。
だから、クルーエルもネイトを見習ったほうが良いのかななんて言ったんでしょうし。
ネイトの純真さを見ていると、読んでるこっちの心も落ち着くような感じがします。
イラストもよくあっていて、澄んだ空気のような、透き通った雰囲気がして。
この優しい世界が自分はやっぱり好きだなぁ、と改めて実感しました。