でも、わたしははじめて、自分のための小説を読んだ気がした。
「少女文学」をテーマにした合同誌ですね。5月に開催されたコミティアで頒布されてました。
紅玉いづき、若木未生、神尾あるみ、小野上明夜、木間のどか、北川恵海、七木香枝、栗原ちひろ(敬称略、掲載順)の8作が掲載。
紅玉先生のツイッターをフォローしてて気になったので購入。良作揃いで満足です。
紅玉いづき『ぺぺ、あなたの小説を読ませて。』
子供の頃にカバンにつけていたマスコットからもじって、ぺぺというあだ名を本が好きな少女。
友人のシキは、本はローコストすぎるという。カナデはクリエイティブなんてもんはお趣味のハンイで、とばっさり。
どちらも、ある意味においては正論ですよね。出版業界が厳しい今のご時世であればなおさら。けれど、ぺぺはハッキリ言い返せはしないけれど「本でなくてはならないもの」を漠然と感じていて。
ある本を手にした時に、世界が変わった。
ぺぺは、創作者になるでしょう。既になっていると言ったって過言ではない。漫画でもゲームでもなく、小説によって感銘を受けた。
何が心に響くかなんて千差万別なんですから。新しい創作者に繋がる言葉がそこにあった。小説の意味って、それでいいと思います。
ぺぺはもっと踏み込んで、自分の小説に意味なんていらないとまで叫んでましたけどね。
若木未生『クウとシオ』
ダイアルを売るダイアル屋。壁の前で客を待つらくがき屋。
坂の底にあるニガミダニという、小さな町の話。
そこで過ごすクウとシオの二人。綺麗屋という、綺麗なものを探して売り歩くコンビ。
かなり短めの作品で、ふわふわと不思議な雰囲気を感じているままに終わってしまったんですが。透明感のある話で、なんか気に入ってます。
神尾あるみ『アミルと不思議な青い指輪』
襲撃を受け、逃げおおせた子供の話。
投げナイフの名手として街で過ごし、ある目的故に宮殿を目指していたアミル。
ある日、手に入れた指輪をこすったら、願いをかなえるという魔神が出て来て。
嘘を許さないという魔神と、アミルの交流が。魔神の許しが、とても綺麗に描かれていたと思います。
小野上明夜『白き寿ぎ』
天使のように見える、羽の生えた人々の世界に迷い込んでしまった香織。
どうにか元の世界に戻れないかと、助けを求めて。
この世界の人々は優しく、その手法を探してくれますが……香織は優しく保護され、何もできず、どんどん不調をきたしていくことに。
……優しいんですよ。えぇ。悪意は全くと言ってない。けれど、天使たちの純粋すぎる優しさはもうこれ毒と変わりませんよ。
そんな感じでやさしさに溢れているのに、暗くて怖い異質な作品です。
木間のどか『ブルージャスミン』
周辺国家の状況など色々な事情が重なって、顔も知らぬ隣国の王太子と結婚する事になったシュカ。
顔も知らぬ相手と結婚なんて、と思っている彼女のもとにリュウという少年が現れて。
彼女を連れて城下町に行き、人々の声を聴き、周辺の状況について話をして。
憂鬱だったはずの結婚に対して、シュカが前向きになれて良かった、と思える良質な短編。
北川恵海『永遠の30min』
不思議な夢をみる少女イブキ。
その夢は一か月たっても忘れぬほど明確に記憶に残って。
誰かが居るような、そんな感覚で日々を過ごすなか十五歳を誕生日を迎え、真実を告げられることに。
こういう過去からつながるエピソードもまたいいですよねぇ。美味しい。
七木香枝『あなたと彼女たちについて』
4Pのエッセイ。コバルト文庫やビーンズ文庫、いくつものタイトルが出て来てますが。
本を読み、影響を受ける事。成長して、見方が変わったり、周囲から指さされたりしていたと指摘を受ける事。
そうした流れを描きながら描かれた、文末の「あなたたちと生きていくのだと思えることが、とても幸せだと」という文言が素敵。
栗原ちひろ『黄金と骨の王国~半竜人と死せる第一王女の章~』
闘技場で出会った二人の話。
天上におわす第一王女が死に、ともに埋葬するために九十九人を地べたの村落から駆り立てて。
攫われたある集落の長から、娘の奪還を依頼されたギョウと、その話を聞いてなお同行したエン。どちらも肝が据わっていると言いますか。エンの方にも行く理由があったんですけどね。
王妃の賭けが、結構好きですね。かなり綱渡りな感じもしますが、賭けってのはそういうものでしょう。