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タイトル通り「後輩と匂い」をテーマにした合同誌。

著者は大宮コウ、雨宮和希、音無蓮、霞弥佳、さちはら一紗、たにみつ、二宮酒匂、林きつね、針手凡一、藤崎珠里、鰤/牙、笑うヤカン。

イラスト参加は、炒芽もやし、えだまめ、さちはら、鈴鹿乃ぽん、ハリんぼて、二宮酒匂、緋狩、みかみ、ゆぞうに。

奥付参照・敬称略での紹介となりましたが、20人近く参加してて、作品も結構風味が違ってて楽しかったです。なんというか性癖でぶん殴られてる感じがした。

 

炒芽もやし、えだまめ、鈴鹿乃ぽん、ハリんぼて、ゆぞうに(敬称略)の5名は巻頭カラーイラストのみの参加。表紙にもなっているゆぞうにさんのイラストが好き。裏表紙の座ってる画も可愛い。

あと、後輩絵で人気の炒芽もやしさんはいつもの、不憫後輩と先輩の絵で、金髪後輩も描かれていて……絵は素敵で好きですが、どうしてこういうことするの……? みたいな不憫さは増した。
いやまぁ、私も黒髪後輩のこと「不憫後輩」とか呼んでるので、こう、まったく人の事は言えないんですけど。

えだまめさんは、巻頭だと絵だまめになってるのは誤字だろうか。
(17:30追記。扉絵とあとがき・奥付の表記が違ってて気になったんですが、絵だまめさんが正しいらしいです。…元々表記ゆれててアカウント名変わってるとか)

文章と絵の両方で参加してる人が何人かいて、多芸さに慄いてる。凄い……



小説各作品の感想を書きました。続きは下記。





・シュガーキス・セレナーデ 文:藤崎珠里、イラスト:みかみ                      

「私も魔が差しました」

 

トップバッターは藤崎珠里さん。Twitterでしって『恋の季節を、きみと』読んで以来ファンです。この合同誌も、藤崎さんが参加されてるって事で興味持ったのが最初だった筈。

収録作品の中で一番短いですが、かなり好みでした。

短くて読みやすいし、「後輩と匂い」合同の雰囲気をしっかり描いてるので、これを最初に持ってきた人は偉い。掴みはバッチリ。

 

屋上に繋がるドアの鍵が壊れていても、一年以上直されていなかった学校。

そこで時々交流をしていた、先輩と後輩の話です。と言っても会話しないで側に居る、みたいな事もあったようですけど。

壊れてるのをいいことに屋上をたまり場にしてる、「不良」な二人。

後輩が吸っている煙草を見ていたら「吸ってみますか」と言われて……

いい感じにじれったくて楽しい。後輩が「機嫌よさげに目を細め」るのに気づいてる辺り、ちゃんと見てるな、というか。
後輩はそこで、何を思っていたのかとか思うと、微笑ましくなるなぁ。
現実の煙草は嫌いなんですが、こういう創作内での描写としては、味があって好きです。

 

・シャンプーと焼き鳥 文:鰤/牙、イラスト:さちはら

「いいですね、それ」

 

収録作品の中だと12を争うくらいに好きですね。トップクラスに変態的だとも思いましたけど。
ゼミの教授に「気持ち悪い」って言われましたしね、先輩の方。

同じゼミに所属する先輩と後輩の話。

先輩の方は生まれつき嗅覚がするどくて。それによって、距離を取られる事もあったので、最近は隠していた。

ただ、ある日。後輩と映画を見た翌日。彼女からいつものシャンプーの香りがしなかった。

もしかして、朝帰りか…? と先輩が悶える話。

 

後輩と出会ってから、彼女が三度シャンプーを変えた事に気づいてるとか、うんあの……なんというかレベル高いですね。悪い意味で。

錯乱していたとはいえ、教授に通報されても文句は言えないと言われた文言をそのまま繰り返した場面は、笑ってしまった。
平手貰ってましたしね……その後、通報せず会話してくれる辺り、器が大きい。
最後に彼女がいった台詞が、良いですねぇ。先輩は爆ぜろ。

 

・終わりと始まりを先輩と 文:林きつね、イラスト:緋狩

「――これでいいんだよな?」

 

前二つが普通の現代青春モノだったところに差しこまれた変化球な感じ。

この後に出てくる変化球の中ではマイルドなので、これもここに掲載する事で、いい感じのアクセントになってると思いました。構成が上手い。
ベースは同じ学校に通う先輩後輩の話。

校門のところでぶつかって数日後、先輩が謝罪に来て。そこから交流が始まった。

その出会いによって、後輩はどんどんと変わって、明るくなった。

けれど、彼女には秘密……というか過去に抱えていた闇があって。

不幸であった彼女の手元に現れた、世界を変えられるナイフ。

 

それを得た彼女は、即座に先輩の下へと駆けて……

幸せを知った少女と、それを教えた先輩の、交流の果て。
「今から始まるのは、一つの物語のエピローグだ」と最初の方に記されていましたが。まさしく。もう結末は決まっていて、そこに進んでいく話。

 

・幸せで大丈夫 文:たにみつ、イラスト:二宮酒匂

「じゃあ、私たちは大丈夫なんですね」

社会人に2年目の僕は、彼女と同棲していた。忙しくも幸せな日々。

まっすぐ帰る気にならず、寄り道をした時、高校時代の後輩と遭遇して。

海上花火大会が催されていて、後輩はそれを見に来たそうで。

そこで二人は、どうしここにいるのか。昔話したこと。これからのことなどを話して。

一時過去と交わって、それぞれが未来に歩き出す話。

ひとつひとつの台詞が長くて、ちょっと説明が強い感じ。

 

・素直になれない先輩と素直すぎる後輩の春夏秋冬 文:笑うヤカン、イラスト:さちはら

「大好きなんだ――!」

 

タイトル通り、素直に好意をぶつけてくる後輩と、素直になれずふざけたりとぼけたりしてしまう先輩の話です。

糖度とテンション高めだなぁと思いつつ、不穏を感じていたら終盤がもう容赦なくて笑っちゃった。

読み終えてから、主宰の方のTwitter行ってあらすじみたら、後輩の愛爆発みたいなあらすじで、アレがこうなるのか……と震えた。

いや、初期の段階で買うの決めてたので、その後余り情報収集してなかったので……そういえば、あらすじ出してたよなーと見に行ったら驚かされました。
甘いだけで終わらず、切なさもブレンドされてて良い終わり方をしてたな、と思います。

 

・フロイデ/ブランデイ/スフイア/セレナアデ 文:音無蓮

『先輩、わたしと一緒に遊んでくれませんか。わたしを貴方に捧げますので』

 

進化した人類『人類後輩』が、進化できなかった『人類先輩』を殲滅する世界。

コロニーで1人過ごしていた先輩の下にやって来た、後輩。

殲滅を旨とする人類後輩の多数派に属さない彼女は、彼と契約をして……それから二人は一緒に過ごしていた。

滅びが目前に迫っていても、変わらずに。

他の作品よりも退廃的だった、といいますか。ポストアポカリプスものなので、当然なんですけど。えーっと、倒錯していたというべきかな。

彼らの契約、不文律一条。ただそれだけを望んだ二人の姿が、美しかった。

 

・いつか全てを爆発するために 文:さちはら一紗、イラスト:さちはら

「人生のやり方を教えてくれる人、ですっ」

 

田舎町の学校に通う、華やかな少女ミチル。

彼女にセンパイとして慕われる「私」は、卒業式の前日に、住まう街から逃げる事にした。

ミチルは、プチ家出と称して途中で帰る予定ではあったけれど。

変なきっかけで交流が始まり、相性が良く、交流が続いていた二人が、違う道を行く別離のお話。

それぞれがどうなるのかは、闇の中。

けれど。「先に行って、私はミチルを待ってる」と。私が述べた答辞代わりの言葉が。

気やすめだろうと優しく響いて、心地よい余韻が残って、結構好きです。

 

・まそかがみ 文:霞弥佳

「人間十八年やって、欲しいものは手に入りそう?」

 

浮塵子や繁文縟礼など、知らない言葉が出て来て、まだまだ自分も語彙が足りないなぁと思うなどしました。賢くなれる短編。……と言うのは冗談として。

あらゆることに才覚を発揮し、文武両道を地で行く後輩、槐琴音。
彼女は、妥協を嫌い、明け透けに物を言うせいで周囲に敵を作るタイプだった。

そんな中で、どうしてか話し相手の地位を確立した先輩である、剣道少女雅代との交流が描かれて……雅代が、琴音という後輩をどう思っていたのか、秘めたる想いをかつての先輩に打ち明ける話。

 

時間は折り重なっていくもので。今先輩である彼女にも、後輩だった頃がある。

それは当然なんですけど、学生の頃には若さもあって見失いがちですね。それを指摘してくれる雅代の先輩であった桃子は、先達としていいキャラだったと思います。

最後、最新の後輩であるところの槐の抱えていた不安が描かれていましたが……いやはや、不器用極まれりというか。変にスペック高いから、飢えてしまったのか。

執着の対象を失った彼女がどんな先輩になったのか、など妄想してみるのもちょっと楽しい。

 

・火香 文:二宮酒匂、イラスト緋狩

「いいえ、先輩。いりません」

 

昭和。終戦前後の話。

家が焼け、家族を失い孤児となった少女と、養育院(孤児院)で出会った先輩の話。

食糧が足りず、最も年長で会った彼は、危険な仕事に志願して出ていった。

勝手に一人で決めた事を少女は怒り……けれど、旅立つ彼にお護りを渡した。

そして時は流れて。彼は無事に帰って来た。

仕事中、幸運に恵まれ知識を得て、結婚も決まった。

そして帰って来た彼が、これまで見えていなかったものを見る話。あらすじでは、呪いと書かれていましたが。確かにここまで思う情念は、呪いだよなぁ……

でも最後。想いを確かめて、しっかりと選んだ先輩には好感が持てます。

 

・志津木後輩のかくしごと 文:針手凡一、イラスト:みかみ

「――悪かったな」

 

文芸部に所属する、日野京一は後輩の古賀島から、相談を持ち掛けられて。

相談というか、古賀島後輩が勢いよく、気になる事をぶつけて来て、日野に推理してもらう流れでしたが。……これまでも似たようなことあったんだろうなぁ、と容易に想像ができる騒がしさ。

お題は、文芸部のもう一人の後輩「志津木栞が、なぜか普段のちがう香水をつけていた」。

状況から推理を構築して、めでたしめでたし……にならない、オチがついてる所がビターな感じで好きです。志津木後輩の本心が切ない……

 

・先輩ヒロイズム 文:雨宮和希、イラスト:さちはら

「先輩って意外とロマンチストですよね」

 

有名な不良と思われている先輩と、好奇心旺盛な後輩の話。

行けるところには行ってみたいとゲームのマッピングをするように、屋上にまで踏み込んで。そこで先輩と交流するようになった。

不良らしく喧嘩をしたと言って怪我をすることの多い先輩。

彼の抱えている秘密の話。そして、それを知った後輩の選択の話です。

うん、孤独だった彼の隣に居てくれる人が出来たのは、目出度いんじゃないでしょうか。

 

・コンプレックス・フレグランス 文:大宮コウ、イラスト:みかみ

「仕方のない先輩ですね」

 

金曜日夜家に来る後輩と、先輩の話。

シャワーとYシャツを借りて、ソファーで眠る彼女を、スケッチブックに描く先輩。

決して付き合っているわけではない。けれど彼女は合鍵を持っていて部屋には、彼女の私物が少しずつ増えていた。

名前も知らない状態で、付き合いが続いている不思議な関係。その他人のような距離感を、先輩の方は心地よく感じていたようですが。

 

数少ない先輩の友人。彼が、後輩とも知り合いらしいと発覚し。

そこからそれまで触れていなかった、後輩の事情に、少し踏み込んで。最後に至っても、「正しい例えも見つからない」というあたり先輩……ってなりましたけど。

見つからないなりに、これから描こうとする意欲は買いたい。ま、はっきり言葉にできなくとも、最終的に幸せそうなので良し。