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流行りもののタピオカをテーマにした合同誌。

文フリ当日、現地で思い立って購入したため、中身を知らず読み始めたら、中々変わり種が多くて驚きました。

こういう変化球たくさんの構成があるのも中々楽しい。最初読んだ時、ジェットコースターかな? とか思いましたけど。

 

あと、あまり流行りに敏感な性質ではなくて、タピオカ系飲料飲んだことなかったんですよね。タピオカ合同を買ったからには、とりあえず飲んでみようと文フリ会場の飲食スペースで売ってたタピオカを購入して飲みました。

うん、まぁ嫌いじゃなかったですけど。殊更にリピートしようってほどは好きでもない按配。

 

作品ごとの感想は下記。


 

・『●←タピオカ』 大宮コウ

「僕は、タピオカは、絶対に飲みに行かない」

 

妹にそう宣言した、高校二年生男子の僕。

翌日にはそれを知っている妹の友達から、タピオカ飲みに行きませんかと誘われて。

かと思えば、幼馴染も。あるいは同じクラスのオタク仲間が。

タピオカを進めて来たり、行って来たという話が出たり。どんどん外堀を埋められている感じ。

 

なんでタピオカに拒絶反応を示すのか。時折見せる幼馴染への微妙な反応はなんなのか。

ちゃんと終盤明かされますが……いやぁ、なんというか面倒くさい子ですね! 身もふたもない感想! こだわりを拗らせて、素直じゃない彼の事、結構好きですよ。

大宮コウさんの作品にはわりとこの手の「面倒くさいキャラ」が出てくる印象。いや、3作品しか読んだことないんですけど。

割れ鍋に綴じ蓋というか、面倒なりにその面倒くささを受け入れてくれる相手がそばに居て、上手い事収まっていくのが好き。

拗らせてて生き辛いだろうなぁ、とか思いますけど。でも、それが彼らなんだから仕方ないですよね。

 

私だってやたらめったら本読んでますし。年間で4~500冊くらい? 年々読めなくなってくな。本読む時間減らせば、もっとアレコレ出来るだろうって言われたとして、読むのやめるかっていったらやめないんですよ。それはもう、そういうものなんですよ。
うん、やっぱり好きだなぁ。収録作の中だと一番好き。

 

・『黒き種を蒔いた人』 小鳥遊

一体この世界の誰が、タピオカドリンクをスマートフォンのように扱うことを発想するというのだろうか?

 

一作目が現代青春モノだったので、そういう合同なのかと思ったら、油断大敵とばかりに切って捨てられた。

いや、まさかタピオカがコンピュータになって、最終的に兵器を生み出して人類との戦争が勃発するSFになるとは思わないじゃないですか。

最初の提唱者、サトシ・ナカムラ。天才とも、狂人と呼ぶべきだったかもしれないとも語られる人物。実際狂気の発想だと思いますけどね。

こういうぶっ飛んだ作品も、嫌いじゃないですが。最終的に宇宙に逃げだして、その末裔が地球に帰ってくると言う最後まで驚きが詰まった作品でした。

 

・『マッシヴ・フード・コロシアム』 ワッショイよしだ

「私がこいつの横に座っている限り、こいつは私には勝てない」

 

裏社会で非合法に行われていた、大食い大会。

勝てば大金が得られ、上手くすれば裏とのつながりが得られるかも。

そんな目論見を持って挑戦者は、29連勝中のチャンピオンに挑む。

品目は、タピオカドリンク。


……いや、大真面目に選んでるですってこれが。
勝つために手を選ばない挑戦者は、しかしチャンピオンの姿に、かつての自分の姿を思い出し……

凄い真剣にタピオカミルクティーを飲み続ける二人を、周囲が見物していたのかと思うと絵面がシュールで笑ってしまう。

ひたすらタピオカを飲み続けて、最後には飲み込まれるお話。

 

・『世紀末タピオカ』 山茶花手折

「幸せだろうなと思ったんですよ」

 

温暖化等諸々の影響があって。

作付面積あたりのカロリー生産量が高いキャッサバに目がつけられた。

世界中で栽培され、タピオカを飲まない日がないというくらい浸透した。製造過程で各種ビタミンが配合された朝食向けのものとかまであるようで。

そんな世界でも人は生きている。けれど。どんな時代であろうと、変化を好ましく思わない勢力はいるもので。ま、畜産が減少し肉が高級品になったり、文化に打撃が与えられてるとなれば、反発も多少は想像できる。

でも、変化に適合して生きてる人だっているんだよ、と言う話。

 

・『かわいいひと』 暴力

「わおちゃん顔超怖いからずるいよね。タピオカ飲んでるだけでギャップ出て面白いもの」

 

クライアントと社外で打ち合わせをして。帰りにタピオカを買って帰る。

そんな習慣を続けている巌。

ある日、列に並んでいると同期の知人と出会って。部署が違うのであまり交流はなかったが、打ち合わせの日程が噛み合っているとかで、それから一緒に列に並んで、益体も無い話をした。

タピオカをしょっちゅう飲んでいるという、ある種のキャラ付の為に通い続けている辺り巌も根性の人だなぁ、というか。自分で決めたルールに忠実なんだろうなぁ。

 

・『スタンプカードが貯まるまで』 風葉

「ごめんね。」

 

成人式後の同窓会。タピオカラーメンなる都市伝説の話題が出て。

何の因果かそれを、かつての友人と探し歩く羽目になる話。

時間で癒える傷はあるでしょうけど。腹水は盆に返らない。

それを、少し時間をかけて丁寧に、確かめるお話でした。

傷に向き合う事が出来て。前に進行めるようになった。かつては失敗したけれど、今は相談できる相手が隣にいるのが良いですねー。

 

・『映えある負け犬たちの祝宴』 斜線堂有紀

「映えるものを合わないんですよ」

「ミーハーのくせに」

「ミーハーだからですよ」

 

テロに直面し、英雄的に死んだ恋人二人。

ある天才的な博士が、二人を惜しみその遺体を奪い、意識を電脳世界に焼き付けた。

そうして作り上げられた第二の世界で目覚めた二人は、また共に時間を過ごす。

どうしようもない彼らの現実と折り合いを付けながら。

実際、一人はコンビニでバイトを始めて適合してる感じがしましたしね。

 

博士は拘留されたものの、周囲は英雄視された二人の意識を存続させる方向だったこともあり、サポートに尽力していて。

デジタルクローンを作り、世界を拡大した。危害を加えられないようにプロテクトが咥えられた、歪な形ではあったけれど。

どうしようもない現実を受け入れて、諾々と日々を過ごす可能性も、もしかしたらあったかもしれない。たとえば、二人の関係が決定的なものになっていなければ。

でも、既に選択は下されていて。だからこそ、あの終わりは約束されていたものなのでしょう。美しい話でした。

 

……え? タピオカ要素どこって? コンビニまでも再現された世界ですからね、そりゃタピオカ屋もありますよ。コンビニで扱うことだってある。コンビニのは簡易でこんにゃくだったりするみたいですけど。

本物か偽物か。偽物の方が好きなのは、おかしいのか。自分にとっての「本物」は何か。あるいはそんな命題の暗喩だったのかもしれない。