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ラノベ好きVTuber本山らのの「IF」を現役作家が描いた、中々に豪華な同人誌。表紙イラストは名取さな。

まぁ前作「本山らのと先生と」もジャンルごった煮な感じはありましたが。今回はテーマからして、本山らのが別のなにかだったら、なのでかなり自由ですね……

BOOK☆WALKERで電子版も販売中です。
今回は手軽さ重視でこちらで購入。制作側の手間は増えてしまうと思いますが、最近は電子化される同人誌もちらほらあって嬉しいですねー。……スペース的にも。




各作品ごとに感想書きました。続きは下記。



・本山らのが、記憶喪失になったら『夏の夜に、忘れものを取り戻しに』 神田夏生

だって私は、ラノベが大好きだから。

 

ラノベ作家として活動してきたものの、打ち切りが続き、もうやめようと思った主人公。

気持ちを整理するために田舎の祖母の家に言ったところ……

一年前に突然活動を中止した、本山らのと出会って。

自分が「本山らの」と言う自覚はあるが、狐で巫女な彼女は、ラノベにうつつを抜かし過ぎだと神様の怒りを買い……ラノベに関する記憶を奪われ、再び認識できなくなってしまっていた。

 

ラノベを教えた翌日に出会うと、ラノベを忘れている。そんな彼女に、再びラノベを教える。

物語を楽しんでもらえるのは幸せで、けれど、繰り返すのがどうしようもなく苦しい。

そんなある日、願いを叶えてくれる神様の話を聞いて……好きな物は裏切れない、とまぁそういうお話。

 

・本山らのが、魔術師だったら『忘れ去られた書庫にて、書魔と踊る』 古宮九時

「どうぞこの扉を、開けてください」

 

魔術師、ということでファンタジー枠。

作家さんが好きなのはありますが、掲載作の中では一番好みだったかなー。

遺跡探検とか楽しいですよね。シチュエーションの勝利。

巨大な穴に街が吸い込まれたり、島ごと空に打ち上げられたり。「原因不明に滅んだ都市」が存在し、その都市に踏み込み資源を持ち帰る探索者が居る世界。

 

主人公は、探索の方針の違いで仲間と物別れになり……同じく一人で行動していた魔術師、本山らの(作中では苗字がない、ただのらの)と出会う。

彼女は目的としている場所があるとかで、協力を依頼してきて……辿り着いた先には、多くの人に忘れられた図書館があった。

長年読まれなかった本に宿る書魔との遭遇とバトルなんかもありましたが、短編集ですしわりとあっさりめ。

読まれない本は確かに悲しい。だから、らのちゃんが会いに行ってくれて良かったなぁという感じ。

……悲しいとか言いながら私、積読が箱単位であるんですけど。……えーっと、あれですよあれ。平行世界の私が読んでるんです。量子積読。

 

・本山らのが、別の世界に生きていたら『灰の世界の本山らの』 八目迷

「あるさ。歴史に残る古典だけじゃない。親が子をあやすために聞かせる即興のおとぎ話にも、心は宿っている。あんたも本当は分かっているんじゃないのか? 小説には人の心を動かすだけの力があるってことを」

 

『この世で一番面白い小説』が生まれた、近未来の話。

誰でも投稿できるサイトに掲載され、爆発的に広まり……そのあまりの影響力故に、根絶させられた。

ひとたび読めば、今まで培ってきた常識を打ち砕かれ、新しい価値観を植え付けられる。

それには底なしの創作欲求も付随し、多くの人は『この世で一番面白い小説』と同じ効果をもった創作物を生み出す。

 

そこまでの影響力を持ってしまった時点で、それは単なる捜索ではなく毒やウィルスの類でしょう。

危険なものだと排除しようとする勢力が現れるのもうなずけるし、実際に排除してのけたのには感服する。

けれど、どれだけ叩き隠匿しようとしても、物語は生まれるでしょう。それを阻むことが、どうしてできるだろう。出来ていいはずがない。

この作品の本山らのは、そんな世界で電波ジャックしてでも、面白い小説を伝えようとする要注意組織のようですが。面白い本を誰かに伝えるのが許される世界で良かったなぁ。

そうでもないと、私が(例え辺鄙なところであろうとも)ブログを書いてる意味ないですからね。

 

・本山らのが、アイドルになったら『ラノライブ!』 海津ゆたか

「それでも、私は諦めきれないんです!」

 

神社の境内で巫女をしている本山らの。

日課の最中に歌を口ずさむのを楽しんでいた所、アイドルオタク兼ライトノベル編集者の女性が接触してきて。

……いやぁまず口にしたのが「あの子は推せる!」の時点で、アイドルオタクの方が強いでしょうあの人。

 

レーベルの目玉が完結したこともあり、注目を集める為にレーベルを応援してくれとらのちゃんをアイドルにしたて上げて……

アイドルテーマのラノベの宣伝なんかもする事になってましたが。うん、みんな楽しそうでいいんじゃないですかね。

 

・本山らのが、高校デビューしていたら『青春の残骸を分け与えられた丸眼鏡の初恋』 あまさきみりと

「この時間が……終わってほしくないなぁ……」

 

高校デビューして、バスケ部のマネージャーをしている本山らの。

初戦敗退が常だったのに今年は勝ち残って、次が決勝。去年のインターハイ出場校とぶつかることになって。

明日がおそらく最後の試合になると達観している先輩と、その姿に鈍痛を感じるらのちゃんの会話で進んでいきます。

 

本好きだとか、共通項はあると思いますけどVTuber要素は無く、一番IFしていたかもしれない。

今まさに青春真っ盛りなわけですけど。タイトルに「残骸」とある通り、本山らのが、その愛おしい時間が終わろうとしている、夕暮れの物語。

 

・本山らのが、宇宙人だったら『ムーンライトノベル』 羽場楽人

「それがムーンライトノベルの作品を紹介することだって。規模が違いすぎるだろう?」

 

人類が月に進出した、近未来SF

高度なAIによって業務を回すところもあれば、ハイテク設備へ投資するより労働者使った方が安いと判断するところもあって。

主人公のスタンも、そんな風に月でこき使われている労働者であり……無名の創作者でもあった。

 

彼の楽しみは、『本山らの六世』の配信を見る事。

六世にまでなったらのちゃんは、月で生まれた作品群「ムーンライトノベル」や未来の投稿サイトを発掘して紹介していて。

自分の作品もいつか読んでもらえたらいいな、と思っていた彼に訪れた変革の物語です。

……まぁ、タイトルというかテーマでばれている通り、実はこの六世らのちゃんは宇宙人で、ある目的をもって各作品を発掘していたわけなんですが。

期待を形にしたような使命で、中々に好ましい。

 

・本山らのが、幻覚で見えたら『あの夏、狐娘の幻覚を見た。』 涼暮皐

「やっぱり、君のことは苦手だよ、あっきー」

 

涼暮皐先生はまーたこういうの書くんですから……

屈指の問題作というか、らのちゃん要素幻覚じゃん! 胡蝶の夢か何か??? 

旅行サークルに所属している大学生。断り切れずに合コンにいった翌日、狐耳を生やした和服の女の子の幻影が見えるようになって。

オマケにその狐娘は、みっくんとあだ名をつけて、バンバン会話を振って来て、無視もしきれずにズルズルと会話する羽目になって。

 

そういうことに詳しい宮代秋良という、友人に相談する事に。

変人呼ばわりしてましたけどね。というか、ワキヤ君に登場する方では? 実は未読。違うんです買ってはあるんです積読の山に埋もれてしまっただけなんです。そんなあなたにカクヨムで好評連載中! 

 

ハッ、私は一体何を……正気に返りました。

でもまぁ実際そういう話なんですよ。幻覚を通して、自分を見つめ直すというか。我に返って自覚する、みたいな感じ。さんざん言いましたが嫌いじゃないです。

 

・本山らのが、ソシャゲのSSRキャラになったら『らの、わたしの「好き」を見ていて。』 藤井論理

「やっぱり最高でした! 全人類に読んでほしい……!」

 

これまたタイトル通り、ソシャゲのレアキャラになった本山らの。

主人公は、彼女が嫌いで……だからこそ、ガチャで彼女を6枚抜き出来た。

すこし不思議系現代ラブコメ、なのかな?

俗に物欲センサーシンドロームと呼ばれる奇病。欲しいと思ったものほど手に入りにくくなり、いらないと思ったものほど手に入りやすくなる側面を持つ難病だとか。

……よくこれを病気認定できたな。確率に有為な偏りが出たんだろうな……

 

本人は、上手く折り合いをつけて生活をしているようですけど。

自分は興味ないけれど、友人の推しであるミュージカルのチケットを代わりに取ったりとか。友人が頼りにするくらいには引き当ててるんだよな凄いな。

 

そんな主人公には好きな人がいて。けれど、シンドロームのせいで、それを表に出せば離れてしまう可能性が高い。

ゆえに隠し続けていて……そう、だから、彼女は本山らのが嫌いだった。

ソシャゲのSSRキャラになろうとも、彼女は全身全霊で好きを叫んでいる、正反対の子だったから。

秘めたる想いが、未来に繋がる……かもしれない。そんな、始まりとなるエピソード。

 

・本山らのが、居酒屋女将になったら『居酒屋らの』 モノカキ・アエル

「いや、設定が渋滞してるだろ!」

 

実績を残せず、営業から本を出すのを嫌がる、なんて話を担当から聞かされる事となったラノベ作家。

この日も企画を3つ持ってきたものの全没。「よっぽどの企画じゃないと難しい」なんて話まで出て……もう、終わりにしようと思った。

いやぁ、ラノベ作家の悲哀というか、厳しい現実を突き付けて来て痛い。実際続刊が出ないケースとか、早期打ち切りとかありますからね。

SNSでその手の情報、結構流れてくるのがまあまあ辛い。

 

夢を追うのに疲れて、フラフラと夜の街を歩いた作家は、見覚えのない場所に迷い込み……

そこで一軒の居酒屋を見つける。「着物姿で丸眼鏡をかけ狐耳を生やした前髪ぱっつんの黒髪を結った美少女」女将が居る居酒屋。そりゃあ思わず叫びたくもなるってものでしょう。

そこで愚痴をこぼし、料理を堪能し。最後に気付きを得て、帰って行く。鬱屈としただけで終わらなかったのはいいですね。

 

・本山らのが、女教師になったら『やがて本山らのになる』 岬鷺宮

「うん、怠惰だよ」

先生は、それにもはっきりとうなずいた。

「けれどきっと――そういうものが必要な時もあるのよ。私にも、夏目さんにもね」

 

ライトノベルが苦手で、けれど物語は好きな女子高生。

彼女には尊敬している女教師がいて、彼女がオススメしてくれる文学を楽しんでいた。

ある時、そんな先生にライトノベルについて聞いてみたら、先生はライトノベルも受け入れられる人で。

彼女に勧められるまま、ライトノベルの沼にハマって行く物語です。

 

作者と読者の真剣勝負、なんてモットーを抱いていた少女からすると、まぁ外道ではあるのかもしれませんが。

それはそれで一つの楽しみ方だし、別の面白さというものもあるんだよ、なんて思いますが。

なので作中でちゃんと先生が、ラノベの側面を認めて受け容れて、諭してくれたのは良かったなぁ。とは言え紹介作品群に、うっかりとはいえ『シコルスキ』混ぜるのはやめてさしあげろ。ある意味でレベルが高すぎる。

……最終的には、それすらも読んでましたから、夏目さんの方も懐が広いなー。
想いが確かに伝わったのだと思える終わりで良きでした。