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川上稔先生の短編ですよー!!

今回も電撃文庫BornDigitalとして、電子版のみ。

カクヨム連載『川上稔がフリースタイルで何かやってます。』で一時掲載していた作品をまとめたものです(ただし『最後に見るもの』は2020111日時点で掲載中)。

短編集1~2巻は「ハッピーエンドのラブコメ」でしたが、今回は「ハッピーエンドな尊い話」。尊ければいいので、現代だろうとファンタジー世界だろうと何でもアリアリなのは強い。

 

個人的なイチオシは『ひめたるもの』。フリスタは不定期に掲載作品が出し入れされてるんですが、消えるタイミングを失念してて再読しそこねたんですよね……。いつでも読めるようになって嬉しい。

尊い話12だと1の方が好きな話多かったですけど、2も面白かったので是非読んでください!


各話ごとの感想は下記。



01:君が手を離さない』

「だから私はそれを信じたの」

 

目が覚めたらどこかの洞穴にいた男女。傍にはほぼ空になった瓶があり、何かしらの薬を飲んだ後に意識を失ったと思われる。そして……ある程度の常識は残っているものの、二人とも自分の名前などの個人に関わる記憶を失っていた。

洞穴から出ようにも雨が酷く、不慣れな土地をk探索するのもはばかられる。ということで、手近な範囲で食料と水を確保して交流を重ね。天候が落ち着いたころに、外へと出た。そして、一番最初に立ち寄った村で保護されることになって。

 

ファンタジー世界ですけど、二人は魔力も失っている上に記憶もなくて。

なんだかんだと受け入れて貰えて。たまたま立ち寄った薬師の話から、二人が飲んだと思しき薬の事とか背景の事も察せられるので情報の出し方が上手いなぁ……って思いました。

記憶を失って、それでも相手を信じた理由。分からないなりに傍にいたわけ。そこが、尊いポイントですよね……。

 

02:化け物のはなし』

「一つ言い忘れていたことがある」

口を開き、

「化け物は、嘘を吐かない」

 

打って変わって、こちらは現代の話。

海辺近くの町に住む「化け物」と呼ばれる少年の話。

親類が金を振り込んだために授業には出るものの、途中を抜かしているために理解が出来ず。夜になれば単車で出かける。

 

そんなある日、自由選択の書道で老教師が変わった課題を出して。

彼が持ってきた、手作りの和紙に好きな字を書け、と。

「化け物」な彼は何も書かなかった。「書けなかった」とも表現されてましたけど。

翌週になると学生たちには、手紙が届けられた。それは和紙を作った地元の子供たちからのもので……何も書かなかった「化け物」の下には当然、何も来なかった。

けれど、ある日どうしてか手紙が先に届いて。そこから顔も合わせない、不器用で遠い交流が始まる。

 

「化け物」が、少年になって、約束を守るのが良いんですよ!

そして彼に手を貸してくれた人もいて、その人達が口を噤んでいるっていうのが、好きですねぇ。

運んだのかよ、大勢で。よくもまぁ何度か往復しただろうに、よくもまぁ咎められなかったものです。お見事。

 

EX:コガレ』

貴方は大事な人なのですから、と。

 

目次上だと「EX」なんですが、扉絵だと「BONUS TRACK」って書かれてますね。

川上作品の読者となって余り深掘りしてないので、そんなに知らないんですが。雑誌か何かに掲載したことがある短編だったんじゃないでしょうか。

誰が書いたか伏せてる企画だったけど、文体の独特さからすぐに発覚したとかなんとか。

 

一人の少年が、「もし僕がここからいなくなったら」や「僕が水になったら」などといくつもの問いかけを投げ、それに対する返答を得る話。

そして最後には問うばかりではなく、行動を始めるわけですが。最後に抱いた疑問には答えが返ってこない、という余韻が好きです。

 

今は引っ込められてますけど、フリスタにも乗ったことがあるハズ。

そこかどこかで、なんか的確な解釈のコメント見たような気がするんですけど、流石にそこまで覚えてないな……。

この「良い解釈を見た気がする」と言う記憶の残滓がこびり付いていて、勝手にモヤモヤした。なんだったけなぁ……。

 

03:最後にみるもの』

「――何も救えなかったなんて、そんなことありませんの。

 貴方は、確かに私を、何重の意味でも、救ってくれたんですもの」

 

術式とかあるファンタジー世界で、傭兵をやっている男の話。

彼の出身地である田舎には特殊な鉱石があり、その力でパワーアップした兵士たちが戦争で活躍したものの、色々あって終戦。故郷を出た男は、傭兵として各地を回りながら仕事をしていた。

 

地の文からしてお調子者というか、後の描写によれば「天性のものがある」トークスキルが軽快で、殴りたくなると言われるのも納得。

そんな彼が、ゴーストの女性と出会って。姉からの伝言を持ってきた彼女と、旅路を共にすることに。

 

道中で仕事を果たしつつ、故郷へと帰って。

そこで彼と彼女の真実が明かされるわけなんですが……最初読んだ時には震えましたね。

そんなものを背負いながら、笑っていたのか、と。彼の「いつも通り」ではあるんでしょうけど、それを取り繕えてしまうのが、凄くて、同じくらい悲しかった。

だから、経緯を知っていた彼女によって救いが差し伸べられたのは本当に良かった。

 

04:ひめたるもの』

「この国において、貴様は私が生まれて初めて手にした私だけのものなのだ」

 

私は、コレが一番好きですね……。収録してくれて、本当にありがとうございます!!

「ひめたるもの」と「ひめたるもの・追補」として投稿されていましたけど、収録にあたってまとめられていますね。

「後に“大攻勢”と~」の下り以降が「追補」パートだったと思うんですが、読んだの大分前なので自信はない。

 

大陸中央にあるため、各国から侵攻を受けていた王国。五代王の時に、東の古王国の救援要請に応じて立ち上がり、大陸全土に渡る戦争に発展。

七代王の時にも争いは絶えていなかった。

 

王の下には、王の言葉を記述する秘書官がつけられていた。

彼女はなぜか、王の言動に対して首を横に振り、否定するようなそぶりを見せ、周囲の人々はそれを王様の寛容だ、とみなしたようですけど。

実際に、秘書官の行動を王様は許しているんですが、それだけでもなくて。

王様と秘書官の間でだけ通じる、暗黙の了解がとても美しく見えて好き。

あと、負けず嫌いでしっかりと学習を続けている王様と、記録をどんどん難解にして、けれど自己主張もしている秘書官のやりとりが楽しかったです。

 

05:空と海を結ぶもの』

『皆、聞いてくれ。亡命者は耐圧服に身を包んだ御嬢様だ。――護る価値がある』

 

書き下ろしのエピソード(の筈)。

狭い海を挟んで対立している二つの国。

その片方の国で、空戦部隊の隊長をしているキャラ視点の話です。

腕利きの隊長が居るので最初は良かったが、相手国がAIを開発して、学習を続ける「堕ちない空軍」なんでものを整えて来て。

それに気付いて対策を取っては見るモノの、AIの学習は厄介で除隊する者まで出てくる始末。

 

隊長は任務の中で失敗して、敵国の「任務中の知性を持ったAI搭載機」に助けられて。

なぜか二人の交流が、密やかに続いていくことになったりして。

AI実装した国から亡命者が現れて、それを守るために戦ったり。SF味があって中々美味しかったです。

そして、亡命者の少女の最後の台詞がまたいい感じだったというか。

いい性格してるキャラばっかりだわぁ……人生を謳歌してる感じが強くて楽しかった。