――だから、何とかしなくてはならない。
そうだ。抱くべきは絶望ではなく、まず決意の火種であるべきだった。
WEB既読。
主人公のアッシュは、辺境の寒村で生まれた農民の子供。
8歳ながらに聡明な彼には、前世のものと思しき記憶があって。
その記憶の中では様々な便利な器具に囲まれて暮らしていたけれど、現実は世知辛く。同年代の子供がただの風邪で亡くなる程度には、死が近い。
その聡明さ故に絶望しかけていたアッシュは、ある日、書物の中に希望を見いだす。
教会の神官に話を付けて、文字を学び、本を借りる許可を得て。
そこに記された知識を活用して、現実を少しでも住みよくしようとする。
「この村での生活をちょっと苦しいものだと感じていまして、少しでも楽にしたいのですよ」と当人は語っていますけど。
その為にするのが勉強して知識をつけて、アロエ(的なもの)を見つけて軟膏を作ってみたり。それがお金になった後は、ほとんど廃れていた養蜂業を復活させようと奔走したり。
夢を見いだしたからには、そこに向かって進むのみ。試したいことは山ほどあって、立ち止まっている暇はない。
アッシュの生き様が、本当に清々しくて見ていて楽しいんですよね。
読書好きとして、シリーズの重要な位置に「本」があるのも見逃せません。
この物語の冒頭に記された「本だ。本だった」から始まる心弾む戦いについての記述が、本当に好きなんですよね。知識を継承するためのモノとして、本を尊重してるのが伝わってくる。
書籍化にあたって、アッシュ視点だけだった物語に他のキャラクターの視点が挟まるようになります。
1巻だと基本的にマイカ視点ですね。今までと違った笑顔をするようになったアッシュが気になってる様子が、彼女視点で見れるのは微笑ましくて良かった。
アッシュが遭難したときの村側の事情とかも分かったり、村長家の教育方針と言うか他愛ないやりとりが見れて楽しい。
巻末には、村長夫人のユイカ視点が挿入されていて、アッシュの絶望に気付いてから1巻終了時までの彼女から見た、変わった少年の事が描かれていますが。
まぁ明らかに普通じゃないんですよねぇ、彼。とても魅力的な怪物だ、なんて評していましたけど。抗いがたい魅力的な提案をしてくるって意味では間違ってない。