「頼むから後悔なんかするなよ。土下座も命乞いも興醒めだ。まだまだ生きるつもりでかかって来い。まだまだ殺すつもりで来い。全部残らず食い散らしてやる。――おまえはただ死ね。それだけでいい」
お気に入りで何度も読み返している作品です。
だけど、この作品の魅力がどこか、と聞かれるとちょっと困る。
気に入った場面はたくさんありますが。一言でまとめるのが難しいんですよね。
レイジが灰色狼と呼ばれ、悪夢を見ながらも、かつての約束を覚えていたこと。
P216、P217の見開きの挿絵に繋がる灰色狼の強さ。
妖精姫を取り巻く陰謀と、姫の策略。
全てが終わった後の、レイジとフランデ、ユベイルのやりとり。
そのほかの登場人物たちも、ただ主人公の活躍を盛り上げるのではなく、自分というものを貫いて生きているように見えるところとか。
これだけだと、キャラクターだけで読んでいるのか、というとそれも少し違う。
そうした信念を持ったキャラクターたちが、行動していく本筋のストーリーもまた面白い。
結局のところ、この作品を構成する全てを気に入っているからこそ、どこから話したものか迷うんですな。
説明するのに、一番わかりやすいのは、後書きにあった理由ですかねぇ。
後書きによれば、この作品はファンタジー小説である。
魔法も亜人も魔物も登場しない。
その上、主人公は娼婦の息子で、ヒロインは一国の王女だが、政治的陰謀に振り回される。
シビアな世界観であったとしても。
作者が「好きで書いて、好きに書いた」という本作品。
「この作品がファンタジーであるのは、単に主人公たちが決して折れないからだ。世界や社会を構成するルールに立ち向かってなお負けないからだ。本作に登場する極度に意地っ張りなキャラクターたちこそが、御伽噺よりもむしろ幻想的だと作者は思っている。幻想の残り香くらいは現実にだってあるのだから」
「そういう意味で、本作品はファンタジー小説である」
と、そう述べられています。
この作品を読んで、楽しんだのなら。
作者の言葉には共感できるはずだと思います。
この小説は、魔法がなくとも、亜人や魔物が出なくとも、紛れもなくファンタジー小説であるという事が。
主人公たちが折れない、というその意味が。
作者がひたすらに楽しんで書いたという作品を、読者として楽しめたのなら、それ以上にいう事なんてあるだろうか、とも思ったり。
良質な小説であると、保証します。