気ままに読書漬け

とりあえず気が向いた時に読んだ本の感想などを上げてます。ラノベメインに、コミック、TRPGなど各種。推しを推すのは趣味です。 新刊・既刊問わず記事を書いてるので、結構混沌しているような。積読に埋もれている間に新刊じゃなくなっているんですよね。不思議。ま、そんなノリでやっているブログですが、よろしく。 BOOK☆WALKERコインアフィリエイトプログラムに参加しております。

★5

不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚2

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「一緒に居る時は助けるし、離れていても力になる。相手を尊重する。理解に努める。それが及ばなくても、粗末には扱わない。――そういうこと全部を無条件で当たり前だと思ってる。俺にとって花乃と一妃はそういう相手だ」

 

床辻の守護をする地柱の一角になった蒼汰くん。

彼の隣には相変わらず異郷の住人である一妃と、以前の事件の影響で首だけになってしまった妹・花乃の姿があって。

彼は半分人間としての側面を残していることや、まだ就任直後ということもあって地柱としての職務については試行錯誤の毎日みたいです。

 

一部とはいえ土地神みたいな役割を担うことになったわけだから、監徒から市内の高校へ転校してくれと頼まれることになって。監徒関係者が多いだけなら驚かなかったのに、先輩地柱の墨染雨との出会いまであったのは驚きましたね。

先輩地柱達は、蒼汰みたいな半分人間みたいな状態ではなくしっかり「地柱」という存在を全うして長くを生きている方々で……。

 

知恵袋的に頼りになる場面もあったんですけど、やっぱり一妃みたいに人とは違う価値観を持っているな、みたいなシーンもあってちょっとゾクゾクしましたね。

人と似ていて、けれども違う。異種が異種であることが示されるシーン、結構好きなんですよねぇ。

多くの禁忌がある床辻ですが。「東西南北を結ぶ道を歩ききってはならない」という禁忌が破られないようにするために、信号が多めに配置されている話だとか。国に対して「そんなつい最近できたようなもの」とこぼしたりだとか。

違う常識で生きてる方々なんだよなぁ。それでも一妃みたいな変わり者を除けば、異郷の人物よりも、一般的な人間に近くて……だからこそ、人と交流できてしまうし、それによって揺さぶられることすらあるというのが危うさだとは改めて思いましたが。

 

地柱を止めるには死ぬしかない、という意味で蒼汰くんは既に不可逆な変化を迎えた主人公なんですよね。

それを受け入れて、その状態で出来ることを模索しているわけです。目下、一妃から妹の体を取り戻したいと思っているみたいですが。一妃と妹本人は現状を良しとしていて、不利な状況。それでも相手を否定するのではなく、自分はこうしたいという意見を発し続けていたわけで。

そんな彼だからこそ、あの最後になったのは納得です。彼が自分を貫くのであれば、同様に個人の意見を貫こうとする人物を否定するのは、一貫してないことになりますしね……。

不可逆な部分が、悲しくないと言ったら嘘になりますが。異種を交えた上で立派に家族をしていた3人の導いた結末が、良いものであったと私は思います。

 


フシノカミ~辺境から始める文明再生記~6

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「…そんなこと言われたら気になってきちゃうよ」

「そうでしょう? だからそんな好奇心だけで旅立つ人は絶対にいますよ」

「知らないことを知るのは楽しいですからね!」

 

アッシュがアーサーから見せてもらったのは、竜が大陸上部の山を蓋していたり、海を封鎖している実にファンタジーな地図だった。

王都はサキュラの南にあるのに、アーサーの地図上ではサキュラの西に描かれていたり、正確な地図というものを知る読者目線だと衝撃を受けてるアッシュの方に賛同してしまうんだよなぁ……。アレはあまりにもあんまりだ……。

 

縮尺も方角も位置も全部メチャクチャで、アッシュ君が憤慨。いつかやることのリストに、地図の作成を書き加えていましたが……。

アッシュの語り口の熱とか、夢の輝きにあてられたアーサーが自発的に地図作成を任せてほしいと名乗り出ることに。

未知についてアッシュが語っているシーンで、未踏の地のカットが載っているの読んでいるだけでもワクワクしちゃいますし、アッシュの目がキラキラしてるのが伝わってくるのでそれを間近でみたらそりゃ惹かれちゃいますよねぇ……。

 

そこから自分の本来の身分も駆使して、「兄」や「従者」の手助けを借りた上でまとめ上げて言ったの良いですよねぇ。

自分の執務で追い込まれていても弟を気遣えるイツキも、従者として成長を促そうとするリインも良い味だしてるんですよねぇ。

なんでこんな良いエピソードが絵伝版での新規なんですか。後に断章としてWEBに追加もされましたけど。絵伝版、こうやってたまに新規エピソードで刺してくるし、そうでなくても再構成にこだわりがあるので読んでて楽しいんですよねぇ。

 

アーサーの頑張りを否定せず、その上で後押しが出来るように測量機器の作成をしていたアッシュ君、「こんなこともあろうかと!」を農民の子がやるんじゃないよ。

常識人のレイナがふらっと立ち眩み起こしていたのも無理はない。まぁ読者的にはアッシュ君が常識はずれなのは今に始まったことじゃないから、まーたやってるよって受け入れられますけど。まだレイナちゃんはその領域にまで到達してないかぁ……。

 

そうやってアーサーがアッシュ君の影響を受けて成長していってるわけですが。

2人の距離が近づいている中で、マイカちゃんもとある事実に気が付いて。同室のレイナとの会話を経て、イツキのところに乗り込んでいく流れが好きです。

これ編纂版とかで描かれているんですけど、そっちだと帯刀していたらしいので絵伝版のマイカちゃんは行動力は変わらないながらも、ちょっと穏やかですね。

 

巻末書下ろしは『リインの姉代行業務』。リインがアーサーのフォローをするように、イツキから頼まれるシーンのSS。業務に忙しそうにしていて、そっちの手伝いに呼ばれたのかと思いきや、領主ではなく兄としての願いを伝えられて。それを聞いてくれるリインの優しさが良い。

描き下ろし漫画は『悪魔の罠』。軍子会に参加している商会の娘、ケイが大物二人に近づきたいと願う中で、気になって暴走しかけた彼女を止めたアッシュ君。さっすがぁ。



現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで!2

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「ここが夢か現実か…現実だとしたら

 今度は死なねぇ 生き残ってやる」

 

610話を収録した第2巻。

自分のフィールドに引き込んで竜を圧倒したように演出した主人公ナルヒトでしたけが。仕込みに時間かかったり反動もあるピーキーさで、実際には結構ギリギリだったそうです。

ラザールが逃げられて、巻き添えを気にする必要も無かったというのがありがたいですねぇ。そして自分も逃げようとしたところ、竜の持っていたアイテムは彼には効果が無くて。

 

後に判明したところで言うと、ナルヒトが異世界人であるために機能しなかったようですが。このあたり、異世界で立ち位置確立して冒険開始した後とかに面倒なことになりそうな気配はするなぁ。便利な帰還アイテム使えないとか手間が一つ増えるわけですし。

コミカライズではウェンフィルバーナの描写が増えてて楽しかったですね「キミの…未来の宿敵?」のコマとかかなり顔が良い……ってなりましたし。

 

トオヤマナルヒトと邂逅し夢破れた経験のあるウェンフィルバーナ。彼の記憶を消して吹き飛ばした後、余裕そうだったのにその後に「トラウマだから」と崩れるシーンとかギャップがあって良かったし。

ナルヒト遠ざけた時に「手ごたえがなさすぎた」とか感づいているのも怖いんだよなぁ。スペック高すぎ。なんでこれよりもスペックが高かった時期の彼女に勝てたんですかね、「推定:並行世界の未来のトオヤマナルヒト」という存在……。

 

そしてついに帰還して蒐集竜と対面することになってしまったわけですけど。

爺やさんことベルナルが立ちふさがっているときの「試して見られたらよろしい」の絶望感、凄いなぁ。扉が遠い。その後に登場する「メインクエスト発生」の画面も、なかなかの迫力でしたが。

逃走を阻止されて連行されて、竜の理に則って結婚を迫られることになっていったわけですが。その局面においても最後に自分の言葉を宣言できるの、あまりにもトオヤマナルヒトすぎるな……。

 

巻末には無題の書下ろし小説が収録。

学生時代のトオヤマナルヒトの友人で会った美少女、海城とホラー展開に巻き込まれることになっていましたが……。なんで現代ダンジョンの外ですらこんなイベントに巻き込まれてるんだ……そしてなんで生き残ってるんだ……。

帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中

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「司書さん。その本は――魔導書は。貴女が完璧に直した場合、戦争に使われるかもしれません。それでも、やりますか?」

(略)

「殺すために直すんじゃない。直した結果がそうなるとしても」狩あの声には逡巡も恐怖もあった――しかし、覚悟と意思も同時にあった。「この子を――本を治せるのは、島なんじゃないが今この国にあたしだけだ。だから、やめない」

 

人が科学の道へ進み、様々な神秘はそのまま歴史に消えていくはずだった。

しかし、人類が忘れつつあった魔力を操る魔族とその集まりである魔王軍との戦争がはじまってしまって。

魔王が三か月おきに放つ「魔王雷」によって各国の都市が破壊されていく中、人類は神秘の残滓である「魔道具」や「勇者」という存在を頼って戦争を続けていた。

 

そんな中で新たに注目されたのが、『魔導書』と呼ばれる遺物であった。時の流れの中で破損してしまっているものの、修復すれば魔力持ちの扱える武器になるだろうと期待されていた一品。

しかし、魔力を持ちつつ稀覯本の修復技術を身に着けている人材なんてそういるハズもなく……帝国の皇女の友人であった、本を愛し、それゆえに職を失った主人公、女司書カリア=アレクサンドルが「魔導司書」という役割を与えられて戦場に送られるわけです。

 

『凄惨な光景、残忍な高位。だが自分は本を読んでいるのだからまだ人間なのだ』という名言を作中の将軍が遺していたとか。どうしたって命の奪い合いをする場であるけれど、人間であろうと踏みとどまっている覚悟が分かる。

他にもカリアの属する帝国、ひいてはそこが属する連合王国においては前線基地に図書館を設置し、兵士のメンタルケア用の施設としていたそうで。実際に作中で効果出ているのを見ると、良いなぁって思いますね。読書好きとして設定が刺さる作品でした。

 

カリアが着任した当初の、第11前線基地の図書館は前任の役職持ちが戦死した為に無法地帯と化していましたが。兵士たちに一歩も退かず、ルールを守らせるように動いたカリア、良かったですねぇ。

本の延滞なんかも日常茶飯事で「明日戦場で死ぬかもしれないんだぞ」と言ってきた相手に、「その本には予約が入っていて、同じ境遇の相手を待たせている」と言い返したシーンが好きです。通常の司書としての業務を行う傍ら、「魔導司書」としての仕事もしっかりしていて……。


あくまで本を愛しているだけの女性だったのに、戦場での命のやり取りに触れることになって、感情を揺さぶられながらも役割を全うしたカリアが良いキャラでした。
図書館利用者の兵士たちも、戦場である以上一回登場してから「次」が無かったりするんですが。彼らの心の支え、その一つに本がなっていたのは間違いなくて、痛くも面白いストーリーが描かれていて良かったですね。

魔王と勇者の戦いの裏で4~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~

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「今やっておくと後で楽になるんだよなぁ」

半分は本当。ただ、後で楽になるかどうかは実はわからない。それでもやっておかないと後で手遅れになる可能性が無いとは言えない。

「それにリリーにもずいぶん助けられているから楽になっているんだよ。ありがとう」

 

フィノイ大神殿の戦いを経て異常に気付いたヴェルナーは、それを王国上層部へ報告。

「人に変身できる魔族」が王都に潜り込んでいる可能性を示唆された上層部が、速やかに対処に動いてくれたのはありがたかったですねぇ。

ヴェルナー、若手の注目株で色々と無茶ぶりされることもありますが、治安維持は流石に別領域。王太子の差配によって貴族や衛兵が動いていくことになって。

脳筋世界で武勲を挙げる機会だから、と奮起している人が多かったのはヴェルナーじゃないけど「本当にこの世界はもう……」みたいな気分になりました。

若手で家系的には文官のヴェルナーが名を挙げていることもあって、一部で暴走する相手も出てきたみたいですしね……。

 

でも、それすらも利用して次につなげているあたり、王太子殿下は本当に優秀ですよね。彼がスタンピードで失われるようなことにならなくて本用に良かった。これだけでもヴェルナーの功績は大きいですよ。

とは言え王太子殿下を救うことになったスタンピードの時のヴェルナーはまだ狭い世界で何とか生き延びようとしていたんですよね。ただ、彼の行動によって家族が救われたとお礼を言われたことで、より視界が開けるようになったわけで。

だから、という訳でもないですけど。今回もまたヴェルナーは地味に評価を挙げる行動を積み重ねていくことになったわけです。

 

王都内部の魔族討伐の時も本命の戦力は別だけれど、ツェアフェルト家の関係者を守るのは貴族の務めとして自家の戦力配置とかの指示をしっかりしていたの、好きなポイントですね。

時折ヴェルナー、「まだ学生なんですけど」とこぼすんですが、転生者というプラスがあるとはいえ学生と思えない実績を挙げてきたからなぁ……。

 

貴族らしい駆け引きにはまだまだ疎くて、グリュンティング公爵とか相手には良い感じに動かされちゃう場面もありますが……公爵はまぁ味方だからな。目をかけている若者にちょっと課題を出したりしてくるだけで……。

駆け引きで言うと、ツェアフェルトで預かることになった勇者の家族、特にメイドとして働くことになっていたリリーとの接点が増えて、他の貴族からの介入があった時に珍しく感情を出していたのは彼の性格が伺えてよかったですねぇ。

まぁ父親から怒りは武器にもなるけど扱いには気をつけろ、と指導されちゃう場面もあったわけですが。伯爵家嫡子である以上、必要な指導だけどこれまでの態度からすれば良い変化ともとられているから、ますます期待のハードル上がっていってる感はありますけども。

 

リリー絡みのイベントが増えてきてるんですが、市井の出で宿屋の娘であったことから、市民からも情報を集めているヴェルナーのサポート出来てたのは良かった。

あと、美術的な才能もあって、思った以上に拾い物というとアレですが。なかなか得難い人材をメイドとして確保できたのは、かなりの幸運なのでは。

 

ヴェルナーはゲーム情報を含む前世の知識で対策を練ってきていましたが……彼の記憶にない情報も増えてきて。彼も知らない敵幹部まで現れて、状況がどんどん変わっていく中で、彼が次にどう動くのかが楽しみですねぇ。

書籍加筆キャラのミーネと彼女の実家であるフュルスト伯爵家のエピソードも細々挿入されていましたが……あっちはあっちで厄介ごと抱えることになってそうですしねー。次も楽しみです。

春夏秋冬代行者 秋の舞 下

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「頑張って、撫子。貴女なら出来る。俺はすぐ傍で見守りましょう」

 

橋国・佳洲の秋の護衛官・ジュード。

彼はある目的をもって撫子を拉致することを決めて。現人神を手中に収めるために、敢えてその神威を使わせて、意識を失わせるって言うのは荒っぽいながら効果的だよなぁ。

竜胆と侍女の真葛が致命傷を負わされたことで、必死にそれを救命しようとして……実際、成し遂げたのだから彼女の腕も磨かれてて良いですねぇ。

……それだけ過酷な状況に置かれてきたということで、なんとも喜びにくいですけど。

 

独自行動をとっていた雷鳥が追ってくれてたのは、まぁありがたかったか。

危険な状態だった2人は辛くも命を拾って。真葛さんは起き上がれないほどでしたが、護衛官の竜胆はそれでも助けに行ったんだから、流石というかなんというか。

同じようなシチュエーションだったのもありますけど、シリーズの途中で最初の頃のエピソード回顧するの良いですよねぇ。春の護衛官さくらと初めて会った時に発破かけられたのを思い出して、自分の秋を取り戻すために動いたのはお見事でした。

 

さて佳洲の秋の護衛官ジュードが果たして、何を考えていたのか。

秋陣営に傷を負わせて現人神を拉致した上で、撫子自信を害する気持ちはなく。彼は、ただ佳洲の闇を暴きたかった。そのための証人として大和を巻き込んだのだ、と。

自らの身の危険を顧みず踏み込んでいくあたり、四季の関係者というか。護衛官らしさはありましたが。現在の彼の立ち位置は秋の護衛官だけど、彼の歩き始めた場所はまた違っていて……そこがリアムの行動につながるんだから、やっぱり主従のすれ違いは悲劇招きがちね……。

 

佳洲秋主従の騒動がありましたが、闇を暴きだすという大目標は達成できてましたから、そこはまぁ良かった。

ただ撫子が2回攫われる羽目になって、周囲の人々に傷が増えたのはなぁ……。

大和に残っていた春主従、夏主従の片翼もまた独自に動いてより春夏秋冬の絆が深まった部分もありますが。

 

良かったことでいえば撫子の夢に関する竜胆の父親が語っていた下りが真実であるならば、秋陣営は少なくともある程度の未来まで無事ってことですしね……。まぁ命があるとしても、今回みたいに拉致されたりとかのトラブルには遭遇してそうですけどね。夢の中の竜胆が、今はいつか確認してきてたり「また来たんですね」とか言ってる当たり、実に怪しい。

……まぁあと上巻で竜胆父が心配していた、長生きする秋の神様は護衛官を手放さないって話も、懸念材料にはなりうるのかもしれませんが。主従の絆の強さを見ていると、それもまた良いんじゃないかと思えるんですよね……。

 

メロンブックスで購入したんですが、「人生行路」が好きでしたね。佳洲の幼い冬主従に大和の夏の双子神が、大和の冬について語って「冬のあるべき姿を見た」と思っているシーン、短編のメインとなる部分ではないんですけど好きな描写でした。



恋になるまで、あと1センチ

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「はい。――それ全部、俺がしたいです。俺の権利にしてください。俺にしか、許さないでください」

 

ふざけていた男子に突き飛ばされ、階段の上から落下してきた女子生徒をかばった主人公の男子高校生、颯太。

友人は「天使が空から降ってきたかと思った……」なんて零していましたが。実際美麗な容姿と華奢な体躯を持つ美人さんで、注目されている先輩ではあったようです。

その名が、花茨篠。

基本的に周囲にそっけない態度をとるために「能面みたいな女」とか「いばら姫」なんて噂されている人物ではあったようですが。

 

颯太の前では感情豊かで、妙に距離感の近い先輩でもあった。

最初から「花茨」ではなくて「篠」と名乗って、颯太から「篠先輩」って呼ばれるように誘導しているし。

運動部に所属している彼に、自分の、女物のタオルを貸し与えることで周囲を牽制しようとしたり。

 

基本的に颯太視点で進行していくので、篠の態度にドキドキして振り回される部分も多いんですが。ふわわ、と笑う彼女の事が颯太は気になっていくわけです。

その心情だったり、距離が近づいていくさまが丁寧に描かれているので本当に微笑ましくて、心が温まるんですよねぇ。

颯太目線だといつも可愛い篠先輩ですけど、他の人の前だと警戒したりしてるのが伝わってくるの好きです。颯太相手だと普通に触れたり距離を詰めるけど、それは彼が特別だからというのが明確ですからね……。

 

ちなみにこちら、WEBからの書籍化作品になるんですが、WEB連載時の書くエピソードのタイトルが篠先輩目線の台詞になっていたりするので、気になる方はそちらも見てみるのオススメです。



凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ2

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TIPS€ お前は耳と同じだ。お前の人生にも、お前の命にも、なんの価値もない。お前は空っぽで、乾いていて、他人と本当の意味で心を交わす事もない。お前は1人きりで生きて、1人で死ぬ

 

「やかましい。――それでも続けるのが人生だ」

 

あめりやでの縁もあって、雨霧さんとの付き合い続いているのいいですねー。

……他国の工作員っぽくて情報収集って側面もあるんでしょうけど。彼女、個人的にも気になっているところも多分にありそうですし。アレタも相変わらずバチバチしてるし。

他人事だから微笑ましいなぁって気分になるけど、絶対に近づきたくない。なんなら女将さんの「こいつら趣味悪ゥ」って方が共感できる。

味山さん己を貫き通すタイプで、相手の善悪や力関係とかで態度変えないから、孤高になりがちな強者たちに特効入るんでしょうねぇ。

 

休暇を満喫していた味山はアレタに呼び出され、チームでとある仕事を受けることに。

それは、未登録の遺物所持疑惑のあった上級探索者トオヤマナルヒトの探索任務。

いやぁダンワルからしば犬部隊先生の作品に触れた身なので、ここで繋がりがハッキリ見えるの良いですねー。

ダンワルコミカライズ1巻でも調査報告書あげてる描き下ろしあったしな……。

彼らのアルファチームが本来なら受けるはずだった依頼があって、けれど1巻の騒動があったために仕事を減らした時期があった。トオヤマナルヒトは、それを代わりに振られた人物であり、そこで消息不明となった。

 

それに責任を感じてアレタが一人で依頼を受けようとしていたのは、英雄思考っぽかったけど、チームメンバーが彼女を一人にしない選択をしたの良かったですね。

昨今ダンジョン内で異変が生じがちなことと、場合によってはトオヤマナルヒトの遺物を回収できるかもしれないということで、各国が戦力を派遣する争奪戦のような形式になっていました。

味山のことを良く思っていない軍人だったり他の探索者たちからの横槍が入ってきたりもしてましたが。アルファチームは味山の事を信用していくれていたり、耳の力も駆使して実際に有用な情報提供をして、少しずつ評価を挙げていたのは良かったですね。

 

耳の異能を得た味山は、ヒントを得るその力を駆使して「神秘」を取り込んでいったりしていたわけですが。

水中活動技能を得られるキュウセンボウは1巻で得てましたが。今回の対象となったのが「鬼裂」という存在で……それは現代では名を変えて貴崎となっていた。つまりは、味山が以前所属していたチームであり、今も彼に関心がある後輩の少女の実家だったわけで。

そんな彼女と交流することで、確かな取っ掛かりを得ていましたけど。キュウセンボウほど素直じゃないというか。向こうから逆に試されていたの、怖すぎるな。

「お前が本当に味山只人であるかを試している」って、だって鬼裂側が「味山」という存在を把握して、その物差しを持っていないと測れないじゃん……。

 

4話の終盤に流れていたヤバいニュースだったり。1巻のプロローグみたいに、間に挟まっていた不穏さを感じる、推定:未来の味山の戦闘シーンといい、味山だけでも厄ネタの宝庫っぽいんだよなぁ。どうなっていくんだろう。

彼はあくまで「耳の耳糞を与えられた」……つまりは、耳そのものというか、その一部だけを持っている人間に過ぎないんですよね。

多くの被害を出したという耳の怪物が今回ついに登場したわけですが、いや本当に厄介過ぎましたね。耳の怪物単体でもおっかなくて、指定探索者であろうと犠牲になりえる強さだって言うのに、それを恐れた怪物種が常ならぬ行動をとったせいでより被害が甚大になっていて、白旗上げたくなるくらいでしたね……。

 

ヒントを聞ける味山は、他のメンバーよりも少しだけ適した行動をとりやすい状態になっていましたが。追い詰められた状況下で彼に与えられた2つの選択肢は、仲間の誰を殺して誰を救うのかの選択を強いるものだった。

その上で、別の可能性を模索してより危険な戦いに身を投じた味山、凡人と言いつつ光るものも持っていて、格好いい主人公だと思いましたね。ヤバさもマシマシでしたけど。



Unnamed Memory after the endⅢ

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「感情は、人を愚かにもさせますが、賢明にもさせます。それを放棄させれば思考の放棄にも繋がる。別の失敗をするだけです」

 

書き下ろしの『幸福な街』とWEBに掲載もされていた『Void』の2編を収録。

さらに電子書籍には限定短編で3万字ほどある『愛の指輪』も収録されていて、他のエピソードの裏で起きていた事件について描かれているので、紙派の人でも今回だけでも電子買うのは結構オススメです。

 

逸脱者たちの旅路も、大陸歴で2000年を超えてきましたね……。まぁ2巻の「神に背く書」からして1963年だったわけで、時間の問題ではありましたが。『幸福な街』は2064年なので、サクッと100年立つのがこのシリーズだよなぁ。

3巻は慣れ親しんだ魔法大陸を離れて、1冊丸ごと東の大陸が舞台のエピソードとなっていました。

かつて来た時には、長い歴史を持つ大国ケレスメンティアが君臨していた東の大陸。しかし、その国が滅び……荒れた大陸に満ちていた諦観は、変化の熱によって動くように変化していた。

とは言え、長い争いの爪痕は大きく、大国として落ち着き始めている場所もあれば、立て直そうとしてうまくいかなかった地域もあって。

 

そんな状況の中で、外部者の呪具を探して旅をしていたオスカーとティナーシャが、親代わりの男性2人と姉が行方不明になったしまった兄弟を保護することになって。

逸脱しているからこそ一線を引こうとするオスカーと、人との交流が避けられないんだから選別して関わっていくのはいいと思う、とティナーシャが言うのが意外ではありましたね。

一度関わると見ると決めた以上は、しっかり教え込んでいるあたりは面倒見がよいというか。彼等らしい人の好さが見えて好きでした。

 

『幸福な街』を超えた後に『Void』が収録されているの、味わい深いというかなんというか。「章外:月光」まで収録してくれていたのは、良心的でしたね。

電子書下ろし『愛の指輪』は、本編中でさっくりと流されていた、口絵に登場する呪具に関してのエピソードでこれもまた良かったです。

……と、当たり障りない範囲だとこれくらいしか語れないので、ネタバレ込みの感想をちょっと下の方に書きますね……。

 

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忘却聖女4

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「仮令我々が壊滅しようが、君達は生きてこの場から落ち延びる必要がある。その責がある。――君には、分かるはずだ、マリヴェル。私は君に、その責を教えたのだから」

 

神に作られた人形であった聖女マリヴェル。

そんな彼女を愛し、人としての生き方を教え込んだ当代の教会。その忘却が痛かったわけですが……記憶を残したエーレの足掻きが、ついに実を結ぶことになって。

そこに至ってしまってなお、自分を大事にしなさすぎて怖い部分はありますが、吹っ切ったエーレが都度修正かけてくれてるので良いコンビだなぁ、と思ってみていました。

 

幼少期のエーレが眠っていた時期、マリヴェルと想い出を紡いでいた時の断片が描かれていたのも良かったですねぇ。

モノとしての価値基準で語るマリヴェルに、人としての生を拒絶しつつも返答を返してしまうエーレ、真面目だなぁというか。彼女の影響を受けて外に出る覚悟を決めたの、良いですねぇ。

始まりがそうだからこそ、エーレがマリヴェルの傍に居ようとするのは決まっていたんだな、というか。エーレが「自分は勝手に幸せになる」と言いつつ「俺の怒りはお前にやる」と語っているの、良かったです。

 

自分の使い方を定めたというエーレは、本当にそれをやり遂げたんですよね。

十三代聖女に就くことを決めた当代の神官たちに、マリヴェルとの繋がりについてエーレが指摘して言ったことを、それぞれが心当たりあるシーン好きです。

そういう指摘などの積み重なりもあり、記憶が戻らないままマリヴェルが聖女として教会に帰還することに。

 

先代聖女が犯した罪についての調査を進め、彼女が遺した呪いの根源も見つけた。

王城との会談の席を設けて、潜んでいた先代聖女派を炙り出しもした。

……そうした諸所の準備の間には当然書類仕事も挟まるわけですが、意識が逸れている隙に重要書類に署名させているエーレ、強すぎて笑っちゃった。

当代聖女が帰還したことと先代聖女の暗躍について気付き、聖女選考を停止して候補生たちを神殿に留めることにして。彼女たちの抱えている事情についても聞き取りをして、良い方向につなげようとしていた。

 

……とはいえ、敵も当然大人しくはしてくれないんですよねぇ。

先代聖女派の計略はとても長い時間をかけて積み上げられたもので、最終局面になんとか踏みとどまろうとする状況なわけで、いつでも苦境だったわけですが。

それにしたって、まさかあんな事態に発展しようとは。衝撃的すぎて、読んだ瞬間ちょっと固まっちゃいましたからね……。

彼の仕込みの影響で、望んでいた変化もまた訪れてましたが……タイミングがタイミングで、素直に喜べなかったのが悲しい。

ボロボロに追い込まれていった状況で、最後のあがきをマリヴェルは示そうとしてましたが……どうか救いがある結末を、見せてほしい。

 

巻末書下ろし外伝は『忘却神殿・Ⅳ』。

マリヴェルに縁談が持ち込まれて、相手が意欲的だったことでエーレとバチバチバトルすることになる話。その裏で、神官長との距離も近づいていて……「家族にならないか」という提案をされることになる、という名シーンもあり味わい深いエピソードでした。

……でも、最新時系列においてああなっているの思うと涙が……。

プロフィール

ちゃか

 ライトノベルやコミックを中心に、読んだ作品の感想を気儘に書き綴るブログです。
 新刊・既刊を問わず読んだタイミングで記事を作成しております。
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