ico_grade6_3

『人は、事実をつなぎ合わせて物語を作る』

では自分は、自分がどういう事実を人に与えたかを、考えたことがあっただろうか。

 

大戦と禁酒法によって道徳が崩れた時代。

マフィアの抗争があり、非合法なモノがはびこる街。

運び屋を営むシーモア・ロードのもとに在る日持ち込まれたのは、吸血鬼の少女だった。

「どこへ、いつまでに」しか聞かない運び屋と怪物の縁は、彼女を送り届けて終わるはずだった。

 

けれど、届け先が爆発するトラブルに見舞われて。

なし崩し的に吸血鬼、ルーミー・スパイクとの同居生活が開始。

退廃的な街で、依頼された物を運んで日銭を稼いでいるだけのはずだった。

しかし状況はどんどん変化していく。

配達の得意先だった人物の死、マフィアたちや、少女の動向。

 

いやはや、シーモアが情報を集めて、真相に気づいた中盤の山場には、こっちの背筋に冷たいものが走りました。

「嘘」を抱えながら生活を続ける人間と怪物の、距離感や温度まで伝わってくるようでした。

 

シーモアが、かなりいいキャラしてましたね。非合法な仕事をして、悲劇にはなれていて。

「人殺しはいけない」なんて倫理や正義に駆られるほど青くはない。

でも清濁併せ呑めるほど、達観してもない。迷いながら、平穏を装ってしまう所も等身大って感じがしてストレスなく読めました。

 

「きっと。価値なんて全てが錯覚なんですよ。どこにもなんの価値もないんです。僕にも、あなたにも、この世界にも」

「だから、この世界のどこにも、罪や罰なんてないんですよ」

迷いながら、違う缶を選んだ彼の言葉が響いている。あぁ、いいお話でした。2巻も刊行決まってるそうで、楽しみですね。