「これってもう、手遅れじゃない?」
「知りません。あなた次第です。もっとも、諦めるならそれまででしょうけど」
魔法が実在する世界、そして魔法のアイテムなどが産出される『迷宮』を中心に発展した迷宮都市。
その外れには一軒の喫茶店があり、この世界で唯一コーヒーが飲むことの出来る店となっていた。
異世界召喚もの。剣と魔法の世界で、迷宮なんてそれっぽいものもありますが、そんなものには関わらず、ただ喫茶店を営むだけのお話。
訪れるお客様も、近隣にある魔術学園の少女とか、迷宮に潜る冒険者とか、変わった料理を出すという噂を聞いてやってきた美食家とか色々。
高校生で、実家の喫茶店を手伝っていた経験があるとはいえ、ただ一人で店を構えて、経営を続けるって言うのは並大抵じゃないと思いますがね……
まぁ、彼が店を営んでいるのは、彼なりの理由があるわけですが。
気が付いたら迷宮の中にいて、どうしてここにいるのかが分からなかった。
当然変える方法も判らず、保護してくれた人に助けてもらいながら喫茶店を営むことにして、実家の見慣れた喫茶店を可能な限り再現した。
そうして心を落ち着かせる場所を得て……今度はそこから動けなくなってしまった。
居場所を得て、そこから外に踏み出すことをしてこなかったので、この世界の常識を把握しきれておらず失敗もしてましたが。
彼が、これまで積み重ねてきた時間のすべてが無駄だったわけではない、と。
お客様の伝手を使ったりして、何とか最後は丸く収まったようで何よりでした。
ノルトリがダラーっとしてる場面が一番和んだので、あんな感じで穏やかな時間が過ごせるといいのですが。