川上稔短編集
川上稔先生の短編ですよー!!
今回も電撃文庫BornDigitalとして、電子版のみ。
カクヨム連載『川上稔がフリースタイルで何かやってます。』で一時掲載していた作品をまとめたものです(ただし『最後に見るもの』は2020年1月11日時点で掲載中)。
短編集1~2巻は「ハッピーエンドのラブコメ」でしたが、今回は「ハッピーエンドな尊い話」。尊ければいいので、現代だろうとファンタジー世界だろうと何でもアリアリなのは強い。
個人的なイチオシは『ひめたるもの』。フリスタは不定期に掲載作品が出し入れされてるんですが、消えるタイミングを失念してて再読しそこねたんですよね……。いつでも読めるようになって嬉しい。
尊い話1~2だと1の方が好きな話多かったですけど、2も面白かったので是非読んでください!
各話ごとの感想は下記。
電子専売、川上稔先生の短編集第2弾。
今回もタイトル通り「パワーワードのラブコメ」が5本収録されてます。
収録作品の中だと『鍵の行き先』が一番好きですかねー。
『再会の夜』だけ描き下ろしで、他はカクヨム(『川上稔がフリースタイルで何かやってます』)に一度は載ったことがあるハズ。
出し入れが行われる事もあって、把握できてないんですよねぇ。
01:幸せの基準
コイツこういうヤツだった!
父が亡くなり、母と姉妹で三人暮らしになって。
仕事一直線となった母の代わりに、食事の準備をすることになった姉の話。
「母さん」「娘」呼びで個性が光るからマーすごいというか。
少しずつ腕を磨いていって。母の弁当なんかも作ってはいたが、高校進学を期に自分の分も作ることに。更に、妹の方でも学校でトラブルが発生して、給食取りやめで手間が三倍になってたのはお疲れ様ですとしか言うほかない。
冷食とかも解禁して、それっぽくまとめてそれなりに楽しんで食べていたけれど……クラスに、つまらなそうに弁当を食べている男子がいるのに気が付いて。
「そういうもの」として処理してましたが、ふとしたきっかけで会話して、それから踏み込んでみるのが、アクティブで凄い。
あれよあれよと、弁当交換したりしてましたが、寡黙君のワンテンポずれてる感じがしっかり描かれていたので、「こういうヤツだった!」ってツッコミに、そうだねって同意出来たのは笑えた。
02:星祭りの夜
皆、都合のいいことと、逃げ場になることを言ってほしいんだなあ、と。
単立の、変わった風習のある神社の娘。
いや風習が変わってるというか、神主の家系が変わってると言うべきなのかな……
オリジナル柄のタロット作って販売したり、占い出来るようにしたりした祖母が特にキャラ濃かった疑惑はありますが。
どちらかと言うとフィジカル系の神を奉っているが、恋愛系という事になっている神社の娘ということで、占いを頼まれたりするそうで。
何度も行う中で、小細工が出来る程度に腕を上げている辺り、手先は器用そうですね……
そんな彼女が見た「気付いてない彼」の事。
色々と相談を持ち掛けられる側だから見える事とかもあって……でも、そんな彼女の方が最後気付かないとう見せ方がが上手いなぁと思いました。
03:鍵の行き先
自分の理想ってのが、自分じゃないのはチョイとキツい。
背が低い事を悩んでいる男子視点。
それをネタにしてからかわれることもあったため、心に鍵をかけた。
そして体格が影響しない趣味として、本を読むようになって。
自転車に乗って古書店巡りをしたり、版違いの文章違いを楽しんでいたりと、かなり性に合ってたんだろうなという感じはします。
自分とは違うタイプの読書家だ。私はわりと新しいのを多く読みたいので、あまり古典触れられてないですしね……元ネタ・原典に当たりたい気持ちはあるが、時間が足りない……
閑話休題。
2年に入ってからでも部活に入っておくと、内心とか色々関係するぞ、みたいな話を聞いて。
改めて調べてみたところ、文芸部の存在に気が付いて。たまたま窓の外から見た時に、古い装幀の文庫本を目撃したのもあって、部室に足を運ぶことに。
地の文で「背が低いのはこのための伏線か……! 伏線じゃねえよ」とセルフツッコミ入ってた場面では笑った。
名義だけの生徒が多いなかで、部室に足を運ぶ数少ない部員となって。
部長―彼とは真逆の背が高い女子―との交流がスタートしてくわけですが。この二人のやり取りが、微笑ましくて良い。
04:自由の置き場
「――このままがいい。続けたい。もっと良く出来るなら、そうしたい」
『フリスタ』の方に掲載された後書きによれば「頭の良い二人を出そう、と馬鹿な頭で考えたとき~」みたいな身もふたもないような表現をされていましたが。
高校から大学まで一貫性の学校で、一年の時に真面目にやった結果としてトップを取った少女。
内申点とか計算すると、2~3年は馬鹿でも上に行けることになって……これから自分がすることに意味はあるのか、と疑問を抱いて。
なので、1年の時に稼いだ点を減らさないように、最低限のラインは守りつつも自由を謳歌しようとした。
そんな彼女が、隣の席の男子と交流する話。それぞれの授業の受け方が、真逆で中々愉快でしたねー。
でも、描写少ない中で「濃かった」のはやっぱりあたしの弟君なのでは……
05:再会の夜
私が知らないものこそが、やがて私を自由にしてくれる。
書き下ろしエピソード。
湖を中心にした観光で栄えている地域。それなりに人口はあるけれど、都会ではない。
なので「都会」的な、開かれたエリアに行こうと思ったら、朝から家出て乗り換え三回で昼半ば、みたいな手間が居る。
遠出することを「文明摂取して来る」といったり、いざ足を運べば自分を「未開地のゴリラ」とか言ったりする、語彙のセンスが光る女子視点。
……地元の短大の隠語がアレで広まっている辺り、ある意味で地域色なのかなぁとか少し思いましたね。
受験を控えていて。進路に悩んで。
それもあって度々「文明摂取」に赴く中、駅で同じ学校の男子生徒を見かけて。
先を見据えて準備している彼と、まだ何かを探している最中の私の話。
微妙に噛み合ってないようで、でもちゃんと影響を与えてるのが、良い距離感だなぁと思いました。
カクヨム連載の『川上稔がフリースタイルで何かやってます。』に掲載されていた短編の書籍化。
『フリスタ』は独特の運用してて、不定期に短編の出し入れがあるんですよねぇ。1巻収録で『フリスタ』に残ってるのは「恋知る人々」のみです。気になったら、まずこちらを試してみると良いかと。
4話以外は女性視点の短編で、どれもパワーワードというタイトルに偽りはないのでオススメ。
なお、このシリーズは「BornDigital」とある通り、電子専売となっているので要注意。
01:恋知る人々
ああそうか。皆、だから、そうだったのだ。いつもとか、昔からそうだったからじゃない。恋をして、ハジケたのだ。
人の心が読める少女の話。
昔からそういう物として受け入れていて、誰もが出来るものと思って日々を過ごしていた。
違和感を感じる事もあったが、自分の中で確定したのが中学二年の時ってのは、大分強い。
かつて「無口だねぇ」と評価されたのを、他とは違う個性と受け入れてキャラ付していたとは言いますが、多分それ抜きにしても「無口」だったろ、という感じがある。
でもまー、ありますよね。結局のところ、他人がどういう世界を見てるかなんてわからないわけですから。
小学校の頃どんどん目つきが悪くなった子が居て、何ごとかと思えば単純に目が悪くなったので細目になってただけとか言う話を聞いたことがある。
「なんでもっと早く言わなかったの」「みんなこんな感じだと思ってた」と宣ったとかなんとか。あ、私じゃないです。念のため。
人の考えが分かる事を活かして、適切な距離を保てるようになって。
そうしたら長老呼びされて、色々と相談を持ち込まれるようになったりもしていましたが。
恋愛相談とかもこなしてはきたけれど、いざ自分が恋をした時に戸惑っている姿は微笑ましくて良いですねー。
02:素数の距離÷2
いいじゃないですか。
頑張っている人がいて、私は知っているんですから。
告白の木。その木の下で告白すると、それが叶うという伝説。
まー、作中のキャラに「一方的な効果の呪い系アーティファクト」とか言われてますけど。
同じような伝説がある木が市内に三本もあれば、なんやかんや言われても仕方ないか……
テレビの取材が来たりして、外に進学すると話題に上がったりするそうで、町おこしにはつながってるんじゃないですかね、えぇ。
街の告白押しに辟易してるキャラが曰くを調べて、やっぱり呪いのアーティファクトじゃないですか! になっていたのには正直笑った。
一度恋で失敗して凹んでしまって。自分にとっては縁遠いものだと思うようになった。
……少しずつ復調はしていたみたいですけど。
その切っ掛けは例えば、期待されて入部したのに故障してしまった後輩の噂を聞いて、自分の不幸は小さいものだと思えるようになったことだったり。
受験期に心が乾燥し、気分転換として告白の木まで散歩するという習慣をつけた事だったりことなんですが。
高校に進学したと思ったら、転機が訪れるの三年になってからなんですから、時間の使い方が贅沢と言うか。いい性格してる友人からの通話が笑えて好き。
03:地獄の片隅で笑う
私は、笑う人が好きだ。
個人的にはコレが一番笑えて好きでしたねー。
「やせいの開かずの踏切があらわれた!」と言った後に「野性じゃねえよ、公的だよ」って地の文でツッコミ入れてるのが卑怯だと思いました。
出版社らや映像関係のプロダクションやら。
クリエイティブなアレコレがまとまった向こう側と、喫茶店や食事処の多いこちら側。
作家がこちらで「書いて」、向こうで「形にする」サイクルが出来上がった地域。
踏切が出来て利便性が上がった一方、不慮の事態で捕まると多大な時間ロスを食らう。
それ故に、地獄広場。時間厳守な案件とかがあると、うっかりで死ねる場所。
悲鳴の連鎖が発生する事もあるとか。なんとおっかない場所であろうか……。ちなみに、長時間しまってるから熱中症の温床でもあって、それ関連でも地獄らしいですけど。二重に死ねる。
あと、色々ぼかしてるのに一か所ハッキリ名前出てるのは笑った。使ったことないのにイメージが……
こちら側で仕事をしていたとある作家が見続けた、青年の話。背中押してくれた店長はグッジョブですが、業務上知り得た事口外していいの……? とちょっと心配にはなった。いや店長好きですけど。
04:嘘で叶える約束
「何、泣いてんだよ」
唯一の男性視点の短編。
学校の桜の木の下には、死体が埋まっているとか言う噂があって……その実態は男の幽霊が巣食っているだけなんですが。
幽霊ゆえに、誰にも見えず聞こえず触れられず。
割と自由気ままに幽霊ライフを満喫していたある日、彼の事を見られる転入生がやってきて。
彼女とだけは会話が出来るし、彼女にだけは触れられる。「設定的にかなり矛盾発生する現象だと思うなあ」とか言われてましたが。
時に転入生ちゃんを泣かせながらも検証と交流が続いていきますが。
どうして彼女にだけ見えるのか。もちろん理由があって……
馬鹿正直に幽霊やってた愚直さも、桜の下にいた幽霊を連れ出した転入生の行動も、どちらも良い按配で。
05:未来の正直
自分を変えたものに対する想いを、好きと呼ぶのだ。
文科系の部活が弱く、色々と合わさった結果、美術部に漫画書く人が集まった高校。
進学し、しばらくたってからそれを知って、遅れて入部した少女の話。
幼少期アニメに惚れ込んで絵を描き始め、アニメのコミカライズを見て漫画に流れ、自分でも創作をするようになった。
描くことは続けていたけれど、それまでは誰に見せるでもなく……
同じような趣味を抱く集団の中で、初めて「外」の意見に触れて、少しずつ変化してく話。
「自分が分かってるから」でつい省略してしまいがちなことって、ありますよね……TRPGでシナリオ組む時とか、GMが背景知ったうえで怪しいキャラ配置しても、PLには伝わらなくてすれ違う、とかありますし。情報共有大事。まぁTRPGならPLの発想とかで思いもよらぬ展開からゴールとかで逆に面白くなったりもしますが。
閑話休題。
パワーワードラブコメ内の作品は、主人公視点で地の文で内心が語られています。。
この短編で言うと、想いを自覚したときの「簡単なことが、解っていなかったのだと思う」の下りが好きですねー。
ちゃか
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