「生きるってのはね」
「…………」
「きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ」
主人公の少年は病院で1冊の文庫本を拾う。
それは、クラスメイトの少女が綴ったある秘密に端を発する日記で。
親しくしている友人もなく、いつも一人でいた「僕」が少女と交流してく中で影響を受け、変わっていく。
ヒロインの桜良が自身の状況に挫けず―少なくともそれを表に出さないように努力を重ねて―必死に生きていく姿には胸を打たれる。
彼女との交流は、予想がつかない方向へ転がることもあり、騒がしく楽しく、そして終わりが決まっている切なさ。
そのあたりが上手くブレンドされて、良質な青春小説になっていると思います。
秀逸だと感じたのは、あくまでこの話は僕と彼女を中心にしたものとして終わっているところ。
彼女の事情とは全く関係ない処からやってきた終わり。要素だけ拾えば、このくだりを最初に持ってきて、犯人捜しをするミステリーとして描くこともできなくはない。
でも、そうした事情は枝葉末節で、誰がとかどうしてとかは触れられず。ただ結果だけがあって、それを受けてどうするかという「僕」の話としてまとまっているのが良いなぁ、と思いました。
あと主人公の母親が、多くを語らず、でも自分の息子のことを信じて見守ってくれていた事だとか。
桜良の母が、「僕」のことを受け入れ本を託してくれたことだとか。
喪われてしまったものは確かにあるけれど、彼の周りには優しさが溢れていて、傷を負った彼をしっかり受け止めてくれたことには安堵しました。
良い話だった、と素直にそう思います。