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「女王を信じる兵が、人ではないのは当然だろう? 抗わない者が、人間なものか」
(略)
「化け物に抗わない者など、ただの駒だ。人は人としての誇りを勝ち取って、初めて人になれる。人の身に甘んじ、何もしない人間を……僕は人だと認めることはできないよ」


復讐の旅を続ける、エリーゼとグラン。
一つの領地を滅ぼした彼女たちが次に目指したのは、100年前に村ごと滅び、しかし今もなお人を呑み込むという噂が残り、立ち入り禁止とされた森だった。
その場にあった領地に踏み込んだ二人は、『穴蔵の悪魔』の領地において、永遠に続く戦争を行わされている『人間』たちの姿だった。

相変わらず、悪意を描くのが上手いといいますか。
致命傷ではない限り傷は癒されて、また次の戦争へと繰り出される。
永遠に続く拷問のような場所ですね。
そんな環境にすら、人間は適応してしまうというか。
実際、『穴蔵の悪魔』には人間で太刀打ちできないんですけど。
心を折られ、奴隷のような境遇に甘んじている存在。
途中から登場してきた、相変わらず正体不明の自称「人間の味方」ケンジーは、彼らを人間に含めるかは微妙、といった旨の発言をします。
ケンジーと、ケンジ-の属する組織にもなにやら思惑があるようですが、いつ明かされますかね。

イラストのように、綺麗な世界ではなく、残酷さをはらんでいるけど、エリーゼたちの道行きは尊いと思いますけどね。
復讐に生きているはずのエリーゼが、今回の『穴蔵の悪魔』、ローレルとローエンに向かって、「嗤うな」と自らの意思を突きつけるシーン。
アリストクライシであるはずなのに、彼女はどこか人間臭いといいますか。
「人間の味方」であるケンジーがいろいろと介入してくるのもそのあたりが原因なんじゃないですかね。

決してハッピーエンドではないんですよね、今回も。
しかし、地獄のような村から、殺伐とした戦いを経て、脱出したとき。
その時見えた空は、本当に美しかったんじゃないでしょうか。
重くて暗い展開を重ねて言って、最後に待っているものすら悲劇的であろうと、この作品は綺麗な世界を描いているといいますね、俺は。
逆説的に美しさを教えてくれる、っていうのはあれですけど。
悲劇があろうと、折れずに、目的を掲げて誇り高く生きる姿は、人を引き付けるってことですかね。

エリーゼとグランの二人のコンビが好きなんですよね。
今回はエリーゼがメインだったので、グランの出番があまりなかったのが残念ですけれど。
ノエルとグランの会話は見てみたかったんですが、本編で描かれなかったのは残念。
ただまぁ、ノエルとの出会いでなにか考えることがあったようで、次はグランメインの話になるんですかねぇ。
楽しみです。

アリストクライシII Dear Queen (ファミ通文庫)
綾里けいし
エンターブレイン
2013-11-30