「乾杯しようか。君の堕落と、僕たちの勝利に」
「ええ――乾杯」
もう、言葉もない。
イクタとヤトリの間にある、分かちがたい絆。
いつかその源泉を見てみたいとは思っていました。
信頼するに足る相手。己が半身。
そんな想いを抱くに至る経緯は、納得できるだけのボリュームがありました。
でも、だからこそ、これは無いでしょう。
戦場にそれを求めるのは愚かだとわかっている。
けれど、それでも引き返せない一手を打って行動を起こした結末がアレではイクタが、誰もが救われないじゃないですか。
幼少期、わずかな時間ではあったが、密度の濃い時間。
バダとイクタが計画していたヤトリの堕落。
「一つ覚えておいてよ、ヤトリちゃん。おれの持論の中でさ。これだけは絶対に譲れない。――すべての子供には、夢を見る権利があるんだ」
なるほど、昼行燈と揶揄された過去を持ち、それでいて大将になるだけの器は確かにあったんじゃないでしょうか。
なぜイクタが帝国から離れないのか、閑職とはいえ司書をコネで回してもらってまで、落ち目の国に残牢としていたのはどうしてなのか。
結局それは、これまでに語られていた通り、ただ一人のため、だったわけです。
イクタの熟女趣味についても、その根幹となる要素が描かれていて。
少し予想から外れてはいましたが、イクタの母はかわいらしく、そして強い人でしたね。
イクタの父が戦犯として裁かれた理由も、過去のイクタたちは推察してました。
しかしまぁ、本当にどうしようもないほど、ボロボロなんだな、この国。
そりゃあ、レミオン派も立たずにはいられなかったんじゃないだろうか。
過去の回想を踏まえて、イクタとヤトリの話には文句のつけようもないのですが。
元帥は、もっと何かできなかったのだろうか。彼だって内心悩みはしていたみたいですが。
イグゼムは確かに強い。最強の剣士であるのかもしれない。けれど、前回イクタがレミオン大将を軍人として最適化されていて政治家向きじゃないとか言ってましたが。
イグゼムは、最強でありすぎるあまり、孤立し、ただの「権力を護る装置」になってしまっていないだろうか。
この点ばかりは、狐の言い分に納得してしまう。頭が固いとかそういう次元の話じゃない。
ここまで騒動が大きくなって、喪って、もう二度と戻らないものがあるというのに。
狐狩りに失敗してしまったのは、悔やんでも悔やみきれない。
戦記モノとしては、文句のない一冊では、ありました。
結局ライトノベルだし、どこか甘い夢を見ていた部分もあるかもしれない。
何とか無事に着地できる未来があるのかもしれないと、想っていた。
こういう決別というのは、痛くて苦しくて、辛い。けれど、心に残って止まない。
ここまで積み上げてきたものをすべてひっくり返すような展開を書くのは、作者だからこそ辛く、けれど書かずにいられなかったことなんだろうか、なんて。
狐狩りには失敗する、柱は失われ、最後には「破壊」と共に記される王が君臨する。
ただでさえ、下り坂に在った帝国ですが、これはもう歯止めが聞かないほど壊れてしまったんじゃないでしょうか。
後はもう転がり落ちて、チリの一つも残らないほど、砕かれていく未来しか見えない。
これで新章が秋ってのは酷だ……