ico_grade6_3

「俺は、お前が屑だとは思わない。退屈だとも、空っぽだとも、日陰だとも思わない。お前は凄い奴だよ、一也。お前は、それを当たり前のようにできるから、気付けないんだろう。けれどお前は、俺達では決してできないことが、できてしまえる人間なんだ」

 

学生で小説家デビューしたものの、鳴かず飛ばずな千谷一也。

物語を書く意味を忘れ、どうすれば売れるか、という部分ばかり気にするようになって。

悩める後輩から相談されても、割とばっさりと切り捨てるというか……

「小説が人の心なんて動かすもんか」と正面から行ってしまう辺り、かなり余裕がなくなっている感じはありますね。

そんな彼が、同い年の人気作家小余綾詩凪と出会い、二人で合作を作成する事に。

 

一也が、小説家であっても先が見えず絶望の渦中にいるので、終始暗いんですよね。

後半ようやく多少巻き返してくるんですが……そこに至るまでが合わない、って人が出てしまうんじゃないかとはちょっと思いました。

一也の友人でる九ノ里がいい性格していて、彼が居なかったら、一也は詩凪と会う前に心折れて筆をおいていたかもしれない。詩凪の方が抱えている問題にも気づけなかったかもしれない。

いい友人を持ってますねぇ、ホント。巡り合わせってこういう事だと思いますが。

支え合いながら、一つの作品を書き上げた彼らは止まることなく、次なる目標へ進んでいく。

 

書店員として、一読者として、辛い部分はありましたねぇ。

部数の話とか、売り上げ見込みから打ち切りになる話とか。よくある話なんですよ。よくあるからって、慣れるかってそんな筈はない。

作者が、どれだけ熱を上げていても、2巻の原稿が既に編集者の手に渡っていたとしてもそれが形になる保証はない。

 

最近は打ち切りになるまでの速度も、早くなってきてる感じがしますし、ネットがあるからすぐに情報が拡散していく。

良い評価が広まって、売り上げ伸びて重版につながるなんて流れなら歓迎ですが。酷評されてもそれが広まってしまう。

言葉によって傷付けられることだって、ままあるのです。それでも負けずに、何かを書き続けている二人の事は尊敬します。

 

小説の神様 (講談社タイガ)
相沢 沙呼
講談社
2016-06-21