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「きみの詩が、たしかに聞こえた」

 

大学を留年しブログで小銭を稼ぐ引きこもりの葉山。

何の因果か、天才作曲家蓮見律子に興味を持たれ引きずり出されることに。

普段は色々と足りないけれど最終的に帳尻を合わせる男子と、多くの事を見通せてスペックは高いけれどどこかズレている女子のコンビ、というあたりいつもの杉井節な感じ。

久しぶりにこの作者の作品読んだのですが、安定している、って印象ですねぇ。

 

律子は、天才作曲家で演奏のセンスもあるけれど……作詞のセンスはなかった。

曲のイメージが固まるとどこだろうと楽譜を描き始めてしまう悪癖もあるようですけどね……

自室で発露するならともかく、公共の施設や歩道で始めたら駄目でしょう……

いや常識的に見て警察呼ばれたりするだろ、って以外のもありますが。実際少なくとも一度は呼ばれたみたいだし。

今のご時世だったら、なんか変な事してるって動画取られて、公開前の楽譜の情報がネット流出……とかもありえそうで怖い、とか思ってしまった。

 

詩情が分からない律子が拾ってきたのが葉山で。

もっとも、素人がいきなりいい詩をかけるはずもなく、ボロクソに言われながら、流されるまま、律子の近くで時間を過ごしていますが。

そうすると「天才作曲家・蓮見律子の知り合い」という情報を得た演奏家と知己を得たりとか、色々と葉山の周りにも変化が起きて……ある事件に遭遇する事に。

 

しかし、何とも物悲しいというか世知辛いというか、ここまで破綻する前に踏みとどまれなかったのか、と考えてしまいますが。

無理だったから、あぁなってしまったんだよなぁ。不幸な出来事が重なって、命が喪われることになってましたが。

もし偶然が重ならなくても、別のものが失われるのは避けられなかったわけですし。

生き残った人が少し前向きになれたのだけが、救いでしょうか。きっといつか、あの楽譜を世に広めてくれることでしょう。