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「だからお前は――お前の答えを探してくるんだ」

 

幼少期にみたオペラに撃ち抜かれ、声楽の道へ進んだ椿。

しかしあるコンクールで倒れ、トラウマに寄り歌えなくなって。

音楽大学を辞め、別の学校へ進学し……そこで、オペラの自主公演を行うサークルに出会う。

 

ずっと打ち込んできた音楽を捨てたとこに、苦さや虚しさを感じながらも、音楽が好きな気持ちは変わらず彼女の中にあって。

多少錆びついているとは言え、ピアノが弾けるという事で伴奏として参加する事に。

新しい環境、新しい出会い。

それらに良い刺激を受けて、今までの自分に無かった視点なんかも得て。

……それでも、彼女は歌えなかった。

 

合宿に参加して買い出しに出た先で、一緒に音楽の道を選んだ幼馴染とばったり会って。

道を違えた事を責められ、軽く言い合いになってました。

幸い同行していた椿の先輩がその場はとりなしてくれましたが……

苦しいままならば、答えを探さなくてはいけないと彼女の背を押して。突き放したわけじゃないですよね。

自分の限界をどう推し量るか、どの道を進むのか。それを選ぶのは、自分でなければならないでしょう。

 

誰かに言われたから、では言い訳になる。

勿論、簡単な話じゃないです。打ち込んできて、才能というものに打ち負かされて。そういった絶望を、改めて見ろと言う話なんですから。

苦しくない筈がない。悲しくない筈がない。打ち込んできた時間が、努力が、夢見た場所に届かないなんてひどい話で……そして、珍しくもない、話です。

 

でも、気付いてしまったからには、それを飲み込まないことには、立ち止まったままなんですよね。

椿は、そして黒田は。絶望を超えた先へ、一歩足を進めたのだと。満足と愛。それは、十分な理由でしょう。

才能がないからって歌ってはいけないなんて法律があるわけでは無し。挫折を知ってなお進んだその姿を、私は尊敬します。

作中ではオペラサークルが舞台ですが、オペラの知識がなくとも読める、良い作品でした。