「そういうこと。まわりの意見にとらわれていろいろ迷うけど、人は意外と自分のしたいことをはっきり持っている。それさえわかればいいと思うんだ。そのときにしたいことをするしかない。未来のことはわからないんだから」
「浮草の灯」、「切り紙」、「二軒家」の三話収録。
川越の街で、縁が出来て悩みを聴いて。それぞれの道を進み始めるお話。
人間どうしたって迷うことはあるもので。
今自分のいる場所は確かにある。けれど、これからもここにいるのか。いていいのか。はたまた別の道を探すのか。今回はそういう話が多かったですね。
たとえば「浮草」。『三日月堂』でも出て来た古本屋。
そこでバイトをしている女子大生は就活中だが内定がなく、病をわずらった店主から、店は残るからこれからも働いてほしいと言われた。
たとえば、木谷ゼミの先輩。実家は紙屋だったが親に反発しIT会社に就職。だが、勤める中で齟齬を感じていた。そこに企業を予定している人から声をかけられて。
あるいは幽霊話に惹かれて来た少年。彼の家で起きていた問題と、流れた涙のこと。
色々と条件、状況は違いますが。
結局は、冒頭で引用した先生の言葉が全てのように思います。
判断を迫られたとき。分岐に差し掛かった時。自分が、なにをしたいのか。
誰かに相談する事があっても、決断するのは自分なんだという話。
だからって他の人がどうでもいいなんで事ではなく。支えてくれたり、残してくれたものがあるからこそ踏み出せる事もあるわけで。
今は懊悩の闇にあれど、これまでの積み重ねは灯りとなって、これからを照らしてくれることでしょう。相変わらず優しく温かい物語でした。