タイトル通り、藤村由紀/古宮九時(WEB名義/商業名義)先生の作品をオススメする記事です。
イチオシ『Unnamed Memory』を筆頭とする『-world memoriae-』シリーズについては既に記述してる(『『Unnamed Memory』を推すだけの記事』、『「-world memoriae-」シリーズについて語る記事。』)ので今回は、他作品について。

『-world memoriae-』シリーズは、『Unnamed Memory』や『Babel』、『Rotted-s』などいくつもの作品を内包する広大なものですが。
今回取りあげるのは、1作品ごとに異なる世界を構築した、中~長編です。

紹介作品は下記。
『月の白さを知りてまどろむ』、『緩慢な表現と虚ろな幻想』、『曲空虚空』、『空想の魔女』、『陸空猫』。


◇『月の白さを知りてまどろむ』(本編完結済み、後日譚連載中)
異世界恋愛ジャンル。和洋混じったハイファンタジー。
『Unnamed Memory』で作者さんを知った人にもきっと楽しんでもらえる作品だと思います。
かつて大陸を救った神は、美酒と音楽と人肌を代価として求めた。
その神話を継ぎ、栄えた一つの街がある。享楽街アイリーデ。
大陸中から多くの客が訪れる、成り立ち故に王の力すら及ばない独特な街。

しかし人を害する化生が、変わった現れ方をする場所でもあって……
王都からやってきた化生斬りの青年シシュが、正統を継ぐ妓館の主でもある少女サァリと出会い、多くの事件を乗り越えていく話です。
笑える場面も、シリアスなバトルもありますし、少しずつ変化していくシシュとサァリの関係がまた尊くて……

現在なろうとカクヨムにて連載中。なろうだと、例の未完結のまま~って文言が出てきますが。
投稿日時をみてください。
元々は、第壱譚~第伍譚までをコンスタントに投稿されて、そこで本編は完結してます。
その後余裕がある時に、後日談を投稿されているんですね。
異聞譚、第陸譚は本編後の物語で、どちらもキリがいいところまで投稿されています。

カクヨムの方で先行している第漆譚だけは未完なんですが……
とりあえず小説家になろうの方で読めば、しっかり終わってますので!! なろうの話数は164話。
今『Unnamed Memory』と『Babel』の書籍化作業でお忙しいみたいなので、第漆譚の更新はもうちょっと時間かかりそうですね……気長に待ちましょう。

・『月の白さを知りてまどろむ 紅き唇の語りし夜は』
藤村由紀名義の同人誌。2018年5月刊行。
時期としては、第伍章直前。
それなりの時間をアイリーデで過ごして、けれど染まり切ってない生真面目なシシュの仕事ぶりが楽しいです。始終サァリも可愛くて良い。
アイリーデで「人の心を変える紅」なんてものが流行して、サァリはそれをシシュに気になるから買ってきてと言う辺りがこの二人だよなぁ、と言うか。
サァリに対して南部貴族がちょっかい出して来たり、娼妓の死体が上がったりとより物騒な案件も起きてますが。全部まとめて140Pちょっとで纏められてます。
メイン二人のやりとりがいつも通りで好きなんですが……
私正直この巻で一番気に入ったのは、シシュに振り回されてる菓子屋の店主さんですね……
20Pで出て来たあと32Pでも出て来て、描写は多くないんですが、こう……和む。

◇『緩慢な表現と虚ろな幻想』(完結作品)
――人は誰しも、一生に一冊は名作と呼ばれる本を書くことが出来る。
そう政治家が主張して……誰しもが一生に一冊だけ本を出せるようになった世界。
専業作家は消えて久しく、本屋に並ぶ本は全て、誰かが書いた「最初で最後の本」。
どれだけ気に入った本があろうと、その作者の続編は無い。

だからか、過去を惜しみ小説をあまり読まずにいた学生、先崎正敏。
彼はある時、成績優秀な少女、三ツ村紗季に「私の書いた小説を読んで」と言われて。
断ったものの彼女は諦めず……二人の奇妙な共同作業が始まった。
お互いの交流は秘密にして、書きたいものを書く少女の作品を推敲していく。

あぁ、この世界は何て美しくて不自由なんだろう。
印刷に関しては補助金も出るが割合は大きくなくて。義務だからと最低限で済ませる人も居れば、自己負担を増やしてでも豪勢にする人もいる。
玉石混交の極みだと言えるでしょう。「全ては無と変わらない」と作中で言われていましたが。
或いは政治家の言う通り、人が一生に一冊名作を生み出せるとして。
皆同じ環境下でその至高の一冊を出せるとは限らないんだよなぁ……なんてことをつらつら考えながら読んでました。

ま、現実においても年間で7万冊以上新刊が出てるわけですから、人が読める範囲なんて本当に僅かですよ。
或いはこの縛られた中で傑作が生まれているのかもしれない。実際に、この作品自体が完成度が高くて好きですけど。でも、やっぱり私は職業作家が居る世界の方が、嬉しいなぁ。
続きが気になる作品が数多あることのなんと素敵なことか。

創作が義務となった世界で、物語を『造る』べく手を組んだ二人。
彼と彼女が選んだ結末がいかなるものか。それを見届けて欲しい。
小説家になろうにおいて、全11話。
驚くほど短く、濃密な時間が記されているから。

・『ジルコニア』
『緩慢な表現と~』世界を描く、藤村由紀名義の同人誌。
2015年11月刊行。電子版あり。
自分の一冊を書くために、書店に通い他の人の著作を読み漁っている「私」。
ある時手に取った、青い透き通る空の表紙の本。
それを「私」はとても夢中になって読んだ。三度繰り返し読み、四度目に入って、奥付のメールアドレスに気が付いた。
矢も楯もたまらずメールを送り「私」と「彼女」の交流が始まり……本を書き始めるまでの物語です。
これに関して、多くは語りません。短いながらも、惹きつけてやまない作品です。
電子版もあり入手しやすいですから、どうか読んでみて欲しい。

◇『曲空虚空』(完結作品)
分かりやすいボーイ・ミーツ・ガールSFというか。
作られた空の下に広がる、十二の都市の話です。なろうでは、全34話。
と言っても、主人公はまだ年齢制限によって街を出られないので、舞台となるのは第八都市がメインなんですけど。
それぞれの街には、空間制御塔が設けられていて、天候の制御も行われているそうで。
しかしここ最近は、その制御に不具合が生じていた。

ある日、予期せぬ雨に降られた少年は、「空の向こう」からやって来たという少女と出会う。
空の向こうの住人が、都市をフィールドとしたゲームを行っていると彼女は言って。
詳しい話を聞く前に、少女を狙った襲撃があり、少年は彼女の手を取り、共に戦う事となった。
十二都市と、空の向こうにあるという虚都の関係。
プレイヤーと、代行者に選出される条件。
ゲームとバトルを通じて、真実が明かされる物語です。

◇『空想の魔女』(完結作品)
現代ファンタジー。異能モノ。
政府の研究領域として往来が禁止され情報も制限された、謎のエリア魔法島。
その魔法島を恐れる、異能を隠し持った片付けマニアの高校生、江藤宗平。
彼の前に、魔法島の最大機密であるエルフィリアという少女が現れて……
彼女はなぜか彼に懐き、妹たちにも受け入れられ、否応なしに振り回される事に。

魔法島から少女を連れ戻そうとやってくる勢力はいますけど……
二人の能力が合わさると、最強とは言わなくても、かなり厄介なんですよねぇ。
異能や、それによるすれ違いを軸に家族の大切さを描いている作品。
なろうの話数にして30話。かなりテンポよく話が進んで、読みやすくてオススメです。

◇『陸空猫』(完結作品)
なろうの話数でいうと全10話。
脱走壁癖のある小さな猫のソラ。賢く泰然自若とした大きな猫リク。
ピアノ教室をしている家で飼われている二人の猫の話です。

ここまで聞いてシンプルな現代モノかと思いましたか?
しかし残念! この作品のタグは「猫」・「マッチョ」・「怪人」の3つで、S(少し)F(不思議)系統です! 残念か!?

ソラは脱走した末に、度々変な世界に迷い込んで。
そこで戦っているマッチョやタイツマンと遭遇しまくってるのは、運がいいのか悪いのか。
リクがしっかり迎えに来てくれるのが大きいですけど。ソラだけだったら、迷子になって中々帰還できないんだろうなぁ、とかちょっと微笑ましくなる。
猫いいですよ猫。