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カクヨム連載の『川上稔がフリースタイルで何かやってます。』に掲載されていた短編の書籍化。

『フリスタ』は独特の運用してて、不定期に短編の出し入れがあるんですよねぇ。1巻収録で『フリスタ』に残ってるのは「恋知る人々」のみです。気になったら、まずこちらを試してみると良いかと。

4話以外は女性視点の短編で、どれもパワーワードというタイトルに偽りはないのでオススメ。

なお、このシリーズは「BornDigital」とある通り、電子専売となっているので要注意。

 

 

01:恋知る人々

ああそうか。皆、だから、そうだったのだ。いつもとか、昔からそうだったからじゃない。恋をして、ハジケたのだ。

 

人の心が読める少女の話。

昔からそういう物として受け入れていて、誰もが出来るものと思って日々を過ごしていた。

違和感を感じる事もあったが、自分の中で確定したのが中学二年の時ってのは、大分強い。

かつて「無口だねぇ」と評価されたのを、他とは違う個性と受け入れてキャラ付していたとは言いますが、多分それ抜きにしても「無口」だったろ、という感じがある。

 

でもまー、ありますよね。結局のところ、他人がどういう世界を見てるかなんてわからないわけですから。

小学校の頃どんどん目つきが悪くなった子が居て、何ごとかと思えば単純に目が悪くなったので細目になってただけとか言う話を聞いたことがある。

「なんでもっと早く言わなかったの」「みんなこんな感じだと思ってた」と宣ったとかなんとか。あ、私じゃないです。念のため。

 

人の考えが分かる事を活かして、適切な距離を保てるようになって。

そうしたら長老呼びされて、色々と相談を持ち込まれるようになったりもしていましたが。

恋愛相談とかもこなしてはきたけれど、いざ自分が恋をした時に戸惑っている姿は微笑ましくて良いですねー。

 

02:素数の距離÷2

いいじゃないですか。

頑張っている人がいて、私は知っているんですから。

 

告白の木。その木の下で告白すると、それが叶うという伝説。

まー、作中のキャラに「一方的な効果の呪い系アーティファクト」とか言われてますけど。

同じような伝説がある木が市内に三本もあれば、なんやかんや言われても仕方ないか……

テレビの取材が来たりして、外に進学すると話題に上がったりするそうで、町おこしにはつながってるんじゃないですかね、えぇ。

 

街の告白押しに辟易してるキャラが曰くを調べて、やっぱり呪いのアーティファクトじゃないですか! になっていたのには正直笑った。

一度恋で失敗して凹んでしまって。自分にとっては縁遠いものだと思うようになった。

……少しずつ復調はしていたみたいですけど。

 

その切っ掛けは例えば、期待されて入部したのに故障してしまった後輩の噂を聞いて、自分の不幸は小さいものだと思えるようになったことだったり。

受験期に心が乾燥し、気分転換として告白の木まで散歩するという習慣をつけた事だったりことなんですが。

高校に進学したと思ったら、転機が訪れるの三年になってからなんですから、時間の使い方が贅沢と言うか。いい性格してる友人からの通話が笑えて好き。

 

03:地獄の片隅で笑う

私は、笑う人が好きだ。

 

個人的にはコレが一番笑えて好きでしたねー。

「やせいの開かずの踏切があらわれた!」と言った後に「野性じゃねえよ、公的だよ」って地の文でツッコミ入れてるのが卑怯だと思いました。

 

出版社らや映像関係のプロダクションやら。

クリエイティブなアレコレがまとまった向こう側と、喫茶店や食事処の多いこちら側。

作家がこちらで「書いて」、向こうで「形にする」サイクルが出来上がった地域。

踏切が出来て利便性が上がった一方、不慮の事態で捕まると多大な時間ロスを食らう。

 

それ故に、地獄広場。時間厳守な案件とかがあると、うっかりで死ねる場所。

悲鳴の連鎖が発生する事もあるとか。なんとおっかない場所であろうか……。ちなみに、長時間しまってるから熱中症の温床でもあって、それ関連でも地獄らしいですけど。二重に死ねる。

あと、色々ぼかしてるのに一か所ハッキリ名前出てるのは笑った。使ったことないのにイメージが……

 

こちら側で仕事をしていたとある作家が見続けた、青年の話。背中押してくれた店長はグッジョブですが、業務上知り得た事口外していいの……? とちょっと心配にはなった。いや店長好きですけど。

 

04:嘘で叶える約束

「何、泣いてんだよ」

 

唯一の男性視点の短編。

学校の桜の木の下には、死体が埋まっているとか言う噂があって……その実態は男の幽霊が巣食っているだけなんですが。

幽霊ゆえに、誰にも見えず聞こえず触れられず。

割と自由気ままに幽霊ライフを満喫していたある日、彼の事を見られる転入生がやってきて。

 

彼女とだけは会話が出来るし、彼女にだけは触れられる。「設定的にかなり矛盾発生する現象だと思うなあ」とか言われてましたが。

時に転入生ちゃんを泣かせながらも検証と交流が続いていきますが。

どうして彼女にだけ見えるのか。もちろん理由があって……

馬鹿正直に幽霊やってた愚直さも、桜の下にいた幽霊を連れ出した転入生の行動も、どちらも良い按配で。

 

05:未来の正直

自分を変えたものに対する想いを、好きと呼ぶのだ。

 

文科系の部活が弱く、色々と合わさった結果、美術部に漫画書く人が集まった高校。

進学し、しばらくたってからそれを知って、遅れて入部した少女の話。

幼少期アニメに惚れ込んで絵を描き始め、アニメのコミカライズを見て漫画に流れ、自分でも創作をするようになった。

 

描くことは続けていたけれど、それまでは誰に見せるでもなく……

同じような趣味を抱く集団の中で、初めて「外」の意見に触れて、少しずつ変化してく話。

「自分が分かってるから」でつい省略してしまいがちなことって、ありますよね……TRPGでシナリオ組む時とか、GMが背景知ったうえで怪しいキャラ配置しても、PLには伝わらなくてすれ違う、とかありますし。情報共有大事。まぁTRPGならPLの発想とかで思いもよらぬ展開からゴールとかで逆に面白くなったりもしますが。

 

閑話休題。

パワーワードラブコメ内の作品は、主人公視点で地の文で内心が語られています。。
この短編で言うと、想いを自覚したときの「簡単なことが、解っていなかったのだと思う」の下りが好きですねー。