「……ねぇ。葛野君は今、幸せ?」
(略)
「当たり前だろう?」
時は流れて明治。甚夜は、染五郎の伝手を頼って京都に渡っていた。
そこで娘となった野茉莉を育てながら蕎麦屋を営みつつ、鬼狩りを続けていたものの……廃刀令などが出されたこともあり、帯刀しての活動がしにくくなってもいた。
それでも、刀を捨てられるわけもなく、変わらないままでいましたけれど。
同じように刀に生きる「兼臣」を名乗る女性に、鬼退治の助力を乞うてきて。そこまで強くはないものの力を持った地縛という鬼を取り逃がした後、兼臣が居候する羽目になって、ふくれっ面になっていた野茉莉が可愛かったです。
余談の「林檎飴天女抄」が、作中でもかなり好きなエピソードなんですよね。
現代に生きる女子高生の薫が、明治時代にタイムスリップしてしまって甚夜に保護されることになるんですけど。
明治時代に天女呼びをした少女と交わした約束を、長い時間過ぎても覚えているのが尊いんですよねぇ。あとは神社の甚夜を知ってるちよさんの事とかも含めて好きです。WEBでも何度も読み返してます。
「楽しいのはいけないことか?」
「そんなことないよ。でも苦しんで頑張ってる人の方がすごいと思うから」
そういう風に、努力を続けている友人に比べて自分は、と思ってしまう薫は真面目で、だからこそ迷ってしまうんだろうなぁと思います。
けれど、やっぱりこの巻で一番重要なのは、副題にもなっている「徒花」のエピソードでしょう。
廃刀令の時代に現れた、刀に生きる鬼。名を聞くようにしている甚夜のこだわりに対しての応答と、それを受けた甚夜の反応が好きなんですよねぇ……。痛くて、切なくて。それでも意味のある戦いであったなら、せめてもの慰めになってくれたことでしょう。
巻末には「余談:続・雨夜鷹」を収録。後の世に甚夜が『雨夜鷹』の「行間には文字よりも大きな心が詰まっていた」と読み解いているのが素敵でした。