「きみは、自分は料理しかできないという。それでいいんだよ。いつものように料理をしてくれれば、それでいいんだ」
「……どのみち、他にできることは何もねえよ」
テオドール・ダナー関連のエピソードが増える度に、故アンヌ女史の株が上がっていく……。テオドールの事を本当に好きだったんだなぁ、という想いも伝わってきますけど。
自分が死んでしまった場合でも、問題なく状況が進むように段取りを整えていたのはお見事でした。近しい人達ほどなにも知らず、死人からメールが来て驚く羽目になっていたのは……彼女なりのジョークだったのだろうか。
店舗を建て替えなくていけない時期になっていること。隣のビルのテナント契約が切れるため、念願の「テオドール・ダナー美術館」の建設を始めようと思っていること。
そして店を締めざるをえないのだから、他の場所で腕を振るえるように環境を整えておくこと。根回しが完璧すぎて笑うしかありませんな。
美術館建設のために、一時的に倉庫の物資を移送する専門の業者と鑑定家たちがやってきてましたが。パラデューと和解していて本当に良かったな……って思いましたね。
彼が居たから説得力も生まれたでしょうし、口下手すぎるテオと読解力に難がある彼の家族だけじゃ捌き切れなかったでしょ……。
各ジャンルの鑑定家たちが倉庫に保管された、数多の美術品を見て驚愕している様子も面白かったですねぇ。それだけのものを、テオドールのためだけに揃えたアンヌの手腕も恐ろしい。
二年前に亡くなっていなければ。リストのナンバリングは1万点に迫ってたんじゃなかろうか。
テオドール夫婦の事を知っている御仁が、新しくシティでホテルを開業する。従業員の特訓のためにもうけた3か月の期間だけ厨房に立つことになったテオドールでしたが……。
息子夫婦も連れだって向かったものの、口下手すぎる彼は厨房でひと悶着をおこして。
意思疎通がまだ叶う人材としてルゥに助力を願ったのは、身も蓋もないと思ったけど正しい。中学生に声をかけるのは流石に……と常識を持っているのも素晴らしいですよねヨハン夫婦。
引き抜かれてきた若手の中でも腕利きとされる二人は、プライドを傷つけられて各々の師匠に泣きついて……その師匠たちがテオドールを尊敬していた為逆に叱られる珍事も発生してたのは笑う。
テオドールが理想の環境を作るために高額な美術品を(パラデューの出資を経て)購入していったのも面白かったですよね。奇しくも、4巻で言っていた「宮殿のような店を作れば、テオが良いという美術品も増えるのでは?」的発言が正しいと証明されたような。
その為に「暁の天使」まで引っ張り出して来たのは……笑うどころか肝が冷えましたけど。かつて盗難騒動が起きて、前の館長がそれに関わっていたという問題が解決した後に、「絵を貸して」って逆らえない指示が飛んでくるんだからもう……関係者の皆様の胃が無事であることを祈ります。