「人と向き合うのは考えることと同義だよ。他者の答えを流用するのは不誠実だ。不誠実な付き合い方ではいつまでも流されて生きることになる。三百年生きた僕の経験則だ。では、おやすみ」
(略)
「……結局、腹をくくらなければ前を向けないんだよな」
シリーズ完結巻。
吸血鬼の里帰りに付き合い、隠れ里フラウハラウへと向かったトールたち。
道中のトールとキリシュの会話が、結構好きですね。長く生きる彼が、どうして人間と一緒に暮らしていたのか。そしてなぜ、彼女を吸血鬼にしたのか。
その問いかけの裏側には、いずれ来る別れが約束されている2人の関係を、キリシュがどう考えていたのかと見抜いて、トールにアドバイスしてくれた辺り、三百年の経験は伊達じゃない。
……まぁ、そんなキリシュにしたって、いざピアムを失うかもしれないという段階まで、自分の行動がハッキリしてなかった部分もあるみたいですし、大いに悩んでトールなりの答えを出してもらいたいところ。
そして辿り着いたフラウハラウには、かなり長命な始祖が滞在しており……異界について詳しい彼女なら、トールが元の世界に変える方法を知っているかもしれないなんて甘い罠まで在ったわけですけど。
なぜか始祖から、吸血鬼を敵視してるという太陽教会の経典の眠る遺跡の攻略を依頼されることに。吸血鬼対策されてる遺跡を「テーマパークみたいで面白かった」とか言えちゃう始祖様よ……。
実質的に冒険者トップだというパーティーを太陽教会側が雇っていた為、トールとの競争になって。状況によっては代表との決闘で話はまとまったんですが、相手側のファライの癖が強くてなぁ……。扱いがアレなのも納得。
WEBだと発見した資料の情報が前書き欄に書かれていたのですが、書籍化に当たってしっかり資料っぽく挿入されてて良かった。
トールと双子は遺跡が危険なのもあって、トールが単身遺跡で資料を探し、持ち帰ったそれを2人が解析するっていう役割分担をしていましたけど。
双子は情報収集もしっかりこなして、トールのサポートをしていましたが……。その過程で得られた情報もあって、悩みが深まった模様。
トールとの縁は得難いもの。それは序列持ちという戦力としてではなく、双子が抱いた恋心によるもので。でも、思考が繋がっている2人は、それ故に悩むことになったようで。ヒロインズの方もしっかり描いてくれてるのはポイント高い。
書き下ろしの新章が、太陽教会のダンジョン後~最終決戦の間に挿入されています。
トールが以前知り合った獣人のガルハンが「新しいダンジョンが、トールの故郷に繋がっているかも」なんて話を持ってきて。章のタイトルがそのまま「九年前の故郷に続くダンジョン」なんだからズバリなんですが。
WEBだと双子の「詰め」の方が先でしたけど、地球に通じるダンジョンへの対処で「帰ってしまうかも」という不安を感じさせてしまってたのはアレですが。
トールはトールでケジメを付けようとしていたからこそ、終わるまで言えなかったってのも分からなくはない。加筆で、三人の関係がより良く見えるようになったので、嬉しかったですけど。
最後、三人の旅路で出会った人々と力を合わせての総力戦とか、熱くて良かったですよね。
トールが戦闘力でソロBで序列入りしてるのが改めて納得できる戦いぶりでした。