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「ま、神ならざる身なんで何でもかんでもは無理だ。できる範囲を可能な限りでいこう」

 

伯爵家の次男として生まれたヴェルナー。

彼は異世界で生きた記憶がある転生者で、さらにこの世界は生前プレイしたことのあるゲーム世界だった。

とは言え、現実になったことで差異も生じている模様。容量などの原因でゲームではイベントのない街以外は描写されなかったけど、彼の生家を始め、登場しなかった街や貴族などが存在していた。

 

ゲームのストーリーは、タイトルにもありますが魔王が復活したので、勇者が世界中を回って討伐するという王道ファンタジー。しかし、魔王軍もただやられるだけではなく、勇者が国を空けている間に、王都を襲撃し甚大な被害を出すなんてイベントも用意されていた。

それを知っているからこそ、ヴェルナーの目標は「死にたくない」となり……王都襲撃イベントが起きても生き延びられるように、努力を続けた。

 

学園に通っている間に、ゲームの主人公である勇者マゼルとは親友と呼べる関係になっていたようです。

WEBだとこの親友になった状態のエピソードが基本なんですが、書き下ろしの番外編「王立学園~勇者と貴族たち~」がヴェルナーとマゼルの学園時代を描いていて、書籍化して嬉しかったポイントの1つですね。

自分がいかに生き延びるか、に焦点を置いていたヴェルナーは大臣の息子って立場もあって学園では一歩引いた立場で。それもあって入学初期の勇者には近づかなかったそうですが……それでも、その地位故に見過ごせないものには手を出す辺り、根が善良ですなー。

 

そしてついに、ゲームスタートを知らせるイベント、魔物暴走が開始。

まだこの世界の人々が魔王復活に気付いていないせいで、国の戦力が削られる負けイベントみたいなもの。勇者が魔物を操っていた魔族を倒したことで、これで壊滅まではいかないそうですが。

これで壊滅的打撃を受けた騎士を自由に動かせなくなり、勇者パーティーが少数精鋭で大陸各地を回る羽目になるんだよな、みたいに「そこはゲームだから」で納得しそうな部分に理由付けをしてるのが面白いです。

他にもこの世界の貴族の派閥とか、特殊な爵位があるところとか。情報開示が多めかなぁと思うんですが、こういう演出大好物なので楽しかったですねー。

 

魔物暴走に貴族の義務として出兵する事になったヴェルナーは、つまりは蹴散らされる側だった。だから彼は生き延びるために短い間で出来る準備を整え、適切な指示を与えた。

それはゲームイベントや地球の歴史などの様々な知識があったからできた事で、犠牲こそ出たものの、本来は死ぬはずだった人を生き延びさせる事も出来た。

 

この影響はかなり大きいと思うんですよね。番外編で描かれてましたが、当初勇者への接触を控えていたのは、物語開始前にゲームストーリーを知っている自分からの情報提供で状況が変わってしまうのを恐れていたから、というのが理由の一つだったようですが。

序盤のイベントから盤面ひっくり返してると、どんどん予想外が増えて生きそうな予感。まぁ、それもまた彼が生き延びようとした結果で、それで救われた人が増えてるんだから良い変化なんですけどね。

 

自分の実力が勇者パーティーについていける領域にはないとヴェルナーは自覚していて、それはおそらく確かなんでしょう。

でも、彼の影響はかなり大きくて序盤のイベントでも展開が変わりましたし……ヴェルナー自身は、自分の評価が低い感じがしますが。

いずれ王都襲撃があるのが分かっているから、その時生き延びる為に全力で視野が狭くなりがちなのかな。でも、ヴェルナー結構この世界に染まっているというか。なんだかんだで、伯爵家の息子として相応しい振る舞いをしっかりできてると思うんですよね。

 

ウェリーザ砦絡みで演習をしていた時のエピソードが加筆されていて、とある村の危機を救ったりしてたんですが。そこで、胃が痛くなりながらでも、責務を全うできるのは評価高い。

1巻ではゲームのメインヒロインは登場するんですが、その相手は当然ゲーム主人公のマゼルなわけで。後書きでも語られているように、ヴェルナーに対する正ヒロインは1巻では登場しません。その分もあってか、女性キャラ追加する形での加筆されてて挿絵までもらっててびっくりしました。

正ヒロインのイラストも堪能したいので是非とも続いてほしいですねぇ。