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ならば魔術で目玉を作れば、見えるのではないか。

(略)

できるか?

そんなことが可能なのか?

否――やり遂げるのだ。必ず。

 

遥か昔に魔王を討伐した各国より1人ずつ選抜された、合計17人の勇者がいた。半数以上がその戦いで亡くなり、生き残った者の片腕片足を失ったものもいる。

そして、世界ではその戦いの後から、「何かがない子」が誕生するようになったとか。体の一部が欠けていたり、眼が見えなかったり味を感じないなど感覚が喪失するものだったり。感情がない子、というのも居たそうです。

 

魔王の呪いと言われ、国によって解釈は様々なようですけど、それらの喪失を「英雄の傷痕」と呼び尊ぶヒューグリア王国では、王族に生まれれば王太子に選ばれ国を導いていたとか。

まぁあくまで過去の伝承であり、代を経るにつれて減少傾向にあったようですが……この作品の主人公、グリオン侯爵家に生まれた男児、クノンはまさしくその傷痕を持ち、生まれつき目が見えない少年です。

 

百年ぶりの「英雄の傷痕」持ちを周囲は祝福したようですが……当人にとってみれば、生まれつき闇の中に居るのは、誉れでもなんでもなくて。

そしてクノンに取って災いだったのは、彼は三歳にして使用人の声や溜息などから、自分が周りと違う、という事をハッキリ自覚できる聡明さがあった事でしょうか。

七歳の時に魔術の才能を現す紋章が発現して、周囲からまた祝福されたけど「それがどうした」と思うようになってしまった。

英雄の傷痕持ちを尊ぶ国であったため、第九王女が婚約者となったものの。彼女との関係も、良好とは言えなかった。

 

そんな彼でしたが、紋章が現れてから受けていた魔術の授業で、講師がぽろっと零した言葉を受けて、生まれ変わります。

彼を変えた言葉は美辞麗句とかじゃなくて、物の大きさを「目玉くらいの大きさ」と言う、失言に近いものでしたが。

魔術で目玉くらいの大きさのものを作れるのならば。それを発展させて、外に目を作ることが出来るのではないか、と言う気付きをそこでクノンは得たわけです。

不可能事に聞こえますが、生きることに絶望しつつあったクノンにとって、初めて見つけた光であったわけです。

 

今まで気にも留めていなかったことを気にするようになって、自分の不足しているものを自覚して補おうと努力を重ねるようになった。

避けていた歴史――勇者の逸話を聞いたり、体力が足りないからと鍛錬をするようになったり。

 

それまでとは別人のようになったクノンは本当に頑張ったんですよね。魔術の講師に教える事がなくなったと思わせる位に頑張って、婚約者との関係も改善して。

沈んでいたのが嘘のように明るくなっていくんです。まぁ、明るくなりすぎて、ナンパしてる様に見える軽さも会得してしまったのは、痛し痒しというか。

生きる気力のない人形のように、ただ生きているよりは百倍良いんですけど。クノンの性格が合わない人はいそうだなぁ……とは思いました。

 

面白くして好きなんですけど、それはそれとして軽くなりすぎてない!? みたいな読み心地。いやまぁ、魔術バカで実験に熱中して派手なことして、父親とかに起こられてるクノンとか年相応な顔見せるところとか笑えるんですよ。年相応(ただし魔術師としての力量は考えないものとする)ですけど。