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「本気であるということは、少なくとも、何らかの結論を出した時、初めて言える言葉だろ。結論を出す前だったら誰だって口で好きなように言える。しかし結論を出すところまで付き合い、失敗してもそれから目を逸らさずしっかり見て、その時こそ言えるか? 自分が本気だったと。そして――」

(略)

「結論を見ながらも、こう言えるかよ? まだ俺は本気である、と」

 

再読。

この『連射王』って作品は2007年に単行本で出たものが、2013年に電撃文庫から文庫かされて、そして今年の4月に電子書籍化されました。読むなら今! 

実際、川上稔先生の作品の中でオススメはなに? って聞かれたら、少し前まではコレの名前を挙げていましたね。今だったら電子専売の『川上稔短編集』も候補に入るので悩ましい。

 

今だと『終わりのクロニクル』は入手難易度の問題があるし、『境界線上のホライゾン』も面白いけどどうしても冊数が多くて厚いので入り口としてはどうなんだろうって気分になっちゃうのもあって、『連射王』をあげてました。上下巻でまとまってるので。

そういう長さからの判断もありますけど、『連射王』シンプルに好きなんですよねぇ……。

 

閑話休題。

主人公の高村は野球部に所属している高校3年生。野球は好きだったが、勝負事に本気になれず他の部員との間に温度差を感じていた。

同級生の多くが進路を定めて予備校や塾に通い始めている中で、未だに自分がどこに行きたいのか分からず、「自分は何かに本気に慣れるのか」と悩みを抱えていた。

 

そんな彼はたまにゲームセンターに行って、やることが分かりやすいからと格ゲーを好んでプレイしていた。

彼の通う学校の校則には、学校の行き帰りにゲームセンターなどに入ってはいけないとしっかり刻まれていて、バレたら停学と定められているそうで。

だからかゲーセン通いは不良と思っている幼馴染や体育会系ばかりが知り合いにいて、対戦モードをプレイしたことが無かったとか。

 

待ち合わせの時間つぶしとかに使っていただけみたいですが、ある日、彼はシューティングゲームを最高難易度に設定してプレイする人物を目撃して。彼が「本気だ」と口走ったこともあって、思わず最後まで見てしまったようですが……。

ゲームと言う遊びをする場所の「本気」。ワンコインノーコンテニュープレイに、彼は惹かれてSTGの世界にハマる事になるんですよね。

本気になれない自分が目撃した濃密な時間。その「本気」は自分にできるだろうか、と試行錯誤していくわけですが。

 

幼馴染の岩田という少女の事を融通が利かない、なんて評してましたけど。家庭用STGを始めて、毎回同じように負けるからには理由があるはずだと分析に走る君も、中々頑固と言うか似たもの同士の匂いを感じる。

岩田は新聞部所属で、野球部の練習にもよく取材に来ていたがここ最近は休むことが増えていて。家の都合と言うが、いざ彼女の実家であるラーメン屋に行っても居ない。

これまでと違う行動パターンを取っているのには気が付いたが、その理由とかは察せない。そして、彼女も秘密があるんだから、と自分のゲーセン通いも秘匿することにして。

どうにも不器用というか。ゲームに少しずつ本気になっていくパートと、幼馴染の距離に迷うパートがあって、すごい青春してるんですよね。

 

ゲーセンに通って挑戦を続ける中で、高村を引き付けたプレイをした竹さん達との交流も出てくるんですが、彼らの言葉も結構好きです。クリアまで行きたいなら応援します、と言ってくれるシーンとか。偏見と断りを入れた上で、ゲームの本質について語るところとか。

でも同時にどこか悪魔的です。一区切りついたところで「君は、ここで降りますか?」と問いかけたあたりとか、特に。でも、その問いは高村の決断を早めただけでいつかは同じ選択をした気もしますが。

ゲームの方に区切りはついて、けれど幼馴染との関係にはすれ違いから距離が生じてしまいましたが。高村君がどんな答えを出すか、是非見届けて欲しいですね。