「私の主はいつも想定外です。貴族院の寮で派閥の壁を壊した時も、粛清の連座回避を洗礼前の子供達まで行った時も、私は驚かされてきました。故郷の蹂躙を命じるゲオルギーネ様ではなく、手の届く範囲をできる限り助けようとするローゼマイン様を主として選ぶことが出来て良かったと思います」
プロローグが、ゲオルギーネの忠臣グラオザム視点。エピローグが、ジェルヴァ―ジオを選んだ中央の騎士団長ラオブルート視点。
エーレンフェストとユルゲンシュミットを揺るがす大騒動を起こした陣営に属する人物が何を考えていたのか描かれたのは、理解度が上がるって意味ではありがたいですね。
各々の事情はあれど、ローゼマイン達とは相容れないのが改めて示された形にはなります。
ゲルラッハでの戦場、ローゼマインは養女ではありますが「領主一族の責務です」と言って敵地に踏み込めるんだから大したものですよね。
まぁ今回の敵は悪辣で即死毒とか使ってくるし、色々と準備してから事を起こしてるのもあって、領地内をかなりかきまわされてしまった感じがありますね。
それでもゲオルギーネを打ち倒すことが出来たのはなによりですが……ローゼマインがトラウマ抱える結果になってしまったのは痛い。貴族的な観点で見ても、弱みを抱えることになりますしね……。
自分の願いが叶わなかったこれまでの事を思って、アウブ・アーレンスバッハになるのは難しいだろう、とローゼマインは考えていましたが。
大領地出身のハンネローレに焚き付けられたり、フェルディナンドの根回しなどによって、彼女の道が定まったのは、まぁ良い事ではあるんですけども。
ジェルヴァ―ジオはまだ暗躍してるし、王族の反応は鈍いしで、もうひと騒動あるんですよねぇ……。
巻末の描き下ろしは、エーレンフェスト防衛線の後半。
各所に指示を出すシャルロッテ視点の「後方を担う者」。領主教育を受け初めて、最初の任務が防衛線となった彼女がそれでも奮闘している一方、重荷を下ろしたヴィルフリートが元気有り余ってるのが、なぁ……。そういうところだぞ。
平民の兵士レクル視点「西門の戦い」はタイトル通り、門での攻防。主についていけなくて不貞腐れつつ、仕事を果たしているユーディット視点「残された者」。名捧げによって連座回避した子供達に厳しい目を向ける人はどうしても出てくる、というのがローゼマイン視点だと中々見えないので、読めて良かった。
あとはフロレンツィア視点「白の塔で」、ジルヴェスター視点「礎を巡る戦い」は領主と領主夫人としての戦い。旧ヴェローニカ派の子を特別室に隔離してたこととか、そこでミュリエラがバルトルトの妹に厳しい一言を放ち大人しくさせたって下りは、成長が感じられて良かったなぁ。ミュリエラはバルトルト達を隔離する名目に巻き込まれた形だけど、不満を漏らしてないそうですが……絶対、忙しくて読めてなかった新刊を読める自由時間が出来てラッキーって思ってるんだろうなぁって所まで伺えて好き。