「なら逃がすことは出来ない。あの子の不安は取り除く」
「……それなら、お前の命は俺にとって奪うべき命だ」
夏の休暇が近づく中、ほとんどのクラスメイトは実家に帰るようですが……。
アルマークは北に帰ったら戻ってくるまでに一年経ってしまう為帰れず。友人のモーゲンも実家が裕福ではない関係で、寮に残る組だそうで。
どうやって時間を潰そうかモーゲンが嘆いていたところ、ウェンディがウチに遊びに来る? って声かけてくれたのは3人の仲の良さが伝わって来て良かったですね。
まぁその肝心の休みを満喫できるかどうかは直前の試験をしっかり乗り越えてこそ、なわけですが。
クラスメイトのネルソンなんかは、勉強が苦手で予習段階で四苦八苦したりしてましたし。
アルマークも魔術実技の時には、迷って間違った選択を仕掛けたりする場面も。そこで踏みとどれる冷静な部分もあるので、アルマークはこれまで経験してこなかっただけで、素の頭が良いんだなぁって感じがしますね。
百余年以上前に争いが途絶えた南の魔術学院で教わる世界概論――神様にまつわる話では、アルマークが北で教わってきた神話と合致しない部分が多く困惑する事が多い、というのは気になりますね。
言葉が通じるくらいには近しいはずなのに、文化的に大きな差異があるのはどうしてか。
……時折、学院長が見せる沈痛な雰囲気とかも合わせて気になりますねぇ。そもそも世界概論で出てきたある神の異名を、学院長が以前に零してましたからね……。
それを踏まえると、今回のサブタイトルでもある「北からの暗殺者」を派遣した黒幕陣営もかなり厄介な存在なのではって予測が立つので恐ろしい。
休暇に入った後、ウェンディから届いた手紙には約束していたけど、家の問題で招待できなくなってしまったという謝罪が書かれていて。
残念がっていた2人でしたが、アルマークが思い立って行動を起こしたことで、危地にあった友を救う事が出来たわけですから、ひとまずは安心できました。
その選択自体が、なにか事情を知っている人々に影響を与えた気もしますが……現状情報が足りないからなぁ。
元傭兵の北からの暗殺者に相対したアルマークが、戦士として振る舞い成果を挙げたのは見事でしたが……その強さは南にあって浮いてしまうもので、彼の誇りでありながら彼を縛るものになってしまうのが、なんともやるせない。
モーゲンがアルマーク自身を見てくれたのが本当に良かった。
巻末には閑話・残雪。北から南に向かう旅の途中のアルマークを描いたエピソードで、北と南の差異を実感するエピソードでしたねぇ。それでも、良い出会いもあってホッとしました。