「何だ……俺達が叩きつけてきた願いは、きちんと形になっていたんじゃないか。……ざまあみろ、ざまあみろマリヴェル。非力な赤子のような扱いを受けてきた俺達の願いが、神の定めた定義をねじ曲げた」
もう口絵のマリヴェルからして、いろいろとヤバい。
かなり限界が近いことが見てわかるのが……とても辛いんですよね……。
「十一聖 物」からスタート。スラム時代のマリヴェルのあり方が描かれるわけですが……いやぁ、歪んでるわ。
厳しい環境ゆえに他者を下に見て、自分たちの惨めさを認めない風潮がスラムにはあるようですが。それ以上に、マリヴェルの自身が物だという認識が強すぎる。
神殿で生活して諭され続けてきた今も、自分の優先順位低いとは思っていましたが、原点がコレであることを思うと、だいぶ人間味増してますよね。神官たちの努力が伺われる。
書下ろしパートでも描かれてましたが、国政の失策で生まれたスラムを、かつて救おうとした聖女もいたようですが失敗。先代聖女は成功の公算が低いと放置して……。
聖女の認知があったころのマリヴェルは、いつかそこにも手を入れたいと王子と話し合っていたとか。
本当に。突拍子もない言動とかもするし、常識外れではありますが、聖女であろうとする彼女の姿勢は本当に好きです。
神殿の医務室でマリヴェルが覚醒した時には2日ほどたっていたようですが。いまだにエーレもベッドの住人で……ここで「当代聖女陣営、壊滅です!」とか思っちゃうあたりノリが軽い。
本園後半部分でも緊迫してる状況で、「こってりどろ~り濃厚呪詛新発売って感じです」「最低最悪な商品に許可を出した部署を叩き潰せ」とかいうやり取りするし。マリヴェルとエーレの会話、好きなんですよねぇ。
事ここに至っては協調した方がいいとマリヴェルが判断したこともあって、神官長達との情報共有が行われることになったわけですが。
マリヴェルへの信頼が培われたわけではないので、微妙な距離感ではあるんですよねぇ。他者を交えたことでマリヴェルとエーレの抱いた「忘却」について深堀りする余裕ができたのは良かったですけど……それこそが、致命的というか。
国全体に及んだ忘却はどうしても粗い部分がある中で、異常を認識しづらいマリヴェルとエーレの忘却は性質が異なった。違う忘却がかけられていた理由が、あまりにも切ない。
真相に迫れば迫るほど、マリヴェルの限界も近づき……聖女を大切にしているエーレの慟哭も深くなっていくのが、こちらにも刺さって痛いんですよね……。
どうやってそれを為したかはさておき、エイネ・ロイアーの傲慢な行いの一端や、神々の動向なんかも知ることができたのは良かったと言えますが。じゃあその問題をどう解決していくかっていう取っ掛かりはまだ足りないのが悩ましい。
……でも、エーレがマリヴェルの忘却を思い出させて心残りを作ったり、涙を流すこともあったエーレが笑って彼女の錘となってくれたのは、胸が暖かくなりました。
彼が本編最後に見つけた役目をはたしてくれる時を待ちたい。
で、今回半分くらい書下ろしなんですよね。『外伝・忘却神殿Ⅲ』が驚きの厚さで笑った。いや電子で読んでるんですが、この時点でページ数50%とかでしたからね。
マリヴェルが神殿で過ごしていた穏やかな時期の話。ボリュームたっぷり作ってくる料理長によって、エーレがグロッキーになってるのとか笑ってしまった。
聖女と王子の関係はそこそこ良好でも、神殿と王城の間には先代聖女の作った溝があって、どうしたって問題が生じる時もあるみたいですけど。それでも未来を見据えてるマリヴェル達が好きです。
神殿の業務として聖女が神殿を出ることが、年に数度あるそうで。今回はそれの話。当然ほかの神官と一緒なんですけど、マリヴェルと神官たちの距離感がとても良いからなぁ。
過去編大好きなんですけど、いまそれが失われてるのを定期的に思い出すので痛くもある。
一般的な人が思う神官らしさも聖女らしさからも遠いマリヴェルですけど、信仰心とかは本物で……だからエーレが胃を痛めるんだな。「任務に出る度~」って文句言われるのも納得。