「自由に生きてこその冒険者だろう。言いたいやつには言わせておけ。思いたいやつには思わせておけ。それが気にならないのを自由というんだ」
5巻以降電子限定で刊行された『狼は眠らない』シリーズ、完結巻。
WEBの幕引きも味があって好きでしたけど、もどかしさがあったのも確かで、そのあたりの加筆があったのは嬉しいところですね。
7巻終盤は大森林の中にある神殿を荒らされた、と獣人たちに王国が攻め込まれたという状況だったわけですが。
プロローグが全く別の場面でちょっと笑っちゃった。エピローグにつながる加筆要素として面白かったですけど。
死にかけた迷宮で神薬を得て、失った目を取り戻したレカン。今までの状態でもこの世界でも有数の実力者だったのに、まだ伸びる余地があるあたりがすごい。
そして王都に帰還しフィンケル大迷宮の様子を確認だけして。そこでまた気になる情報を見つけるあたりが、レカンというか。
謎が増えたところですぐシーラと出会えたのも良かったですけどね。シーラのいう通り、研究者向きの気質がありますよねレカン。それ以上に冒険者としての生き様の方が強いみたいですけど、
マンフリー、ついこの間脚絆を欲したレカンがらみで貴族家から覚えのない礼をもらったと思ったら、ユフの騒動に関しても同じような目にあったとかで。
利益はあるけどそりゃ驚いてレカンに事情を聴こうとしますよね……って感じではありました。
そして関係者と結婚式に招きたい人についての相談などを済ませて、レカンにしては穏やかな時間を過ごしていたわけですが。
獣人たちの侵攻によって王国側の被害が積み重なってきた、ということでマンフリーから相談を受けることになって。
ここでレカンはかつて一緒に黒穴に跳び込んだボウドの名前を聞くことになるわけです。平和ボケしてた王国は痛い目見る羽目になりましたが。レカンを頼ろうと思えるマンフリーは柔軟ですね。実際、大森林の神殿に関しての情報をエダが持っていたりしましたし、レカンを頼ったのは正解なんですよね……。
相手がかなり強力な恩寵品――向こうでは霊器や神器と呼んでるようですけど――を持っていて、厳しい状況になりつつも刃を届かせたレカンはお見事。
……その後、旧知のボウドをしれっと連れ帰るあたりがレカンですよね。なんかほっとした。
戦争に関して宰相が失態を犯したことや、逆にレカンが勇名をはせたことで結婚式に王家が干渉してこようとしたり面倒ごとも生じてましたが。持論を曲げずにマンフリーに任せたのはレカンらしくて好きです。
結婚してからはしっかり妻2人の間にしっかり子どもを作りつつも、一つ所にとどまれるタイプではなくて。
ボウドと一緒に迷宮探索に乗り出して。海の迷宮でまた直近では存在しなかった百一階層を踏んだ探索者になって領主との縁まで出来たりしてました。ここの探索風景もかなり加筆されてましたね。楽しそうでした。
順調な生活を送っていたところ、レカンとボウドを吸い込むかのように黒穴が生まれ、故郷に強制的に送られてしまうんだから無常です。
WEB版だと向こう側で波乱万丈の生活してるレカンの事情と、三度彼の近くで開いた黒穴が息子たちを彼の下に運んでくれたものの、エダ達とは再会できない場面で終わるんですよね。
直前で長男のホルスがどんな手を使っても知らせるし、父を送り届けられなかったら向こうで自分が結婚して、エダの血を継ぐ子供によって知らせを運ぶと宣言してくれて。エダがその姿にレカンの影をみたわけですから、きっとどんな形であれ再会は叶ったんだろうと想像の余地が残ってて、最初に言った通りあれはあれで好きでした。
……いやまぁ、レカンがエダに約束したもし向こうに行くのならエダと一緒だ、という約束を破らせたうえ10年放置させる結果になった黒穴現象に関しては思う所あったのも事実なので、加筆によって帰還がかなった場面の描写が少しでも差し込まれていて良かった。
今回のプロローグは、領主に家族を人質に取られて理不尽な命令をされた冒険者ウォージェニーが黒穴に跳び込み、そこで出会ったフーという冒険者に助けられながら異世界に適合していく話で、どうつながるのかと思いきや。孫はジーンという名の冒険者になったそうで。
エピローグで再び彼が登場したときに、さてどんな幕引きを見せてくれるのかと思ったら変わらぬ主人公の姿を見せてくれたので満足度高かったですね。
途中から電子のみとはなってしまいましたが、刊行を続けてくれたことに感謝しかない。良いシリーズでした。