「然り。敗れはしたが余はあの戦いに満足しているのだ。世に勝利した者達が魔神王を倒せなかったのは不満だが……まあ、よい。それよりも今はこの世界を見て、そして愛でてみたい」
「エクスゲート・オンライン」。古いハードで出ていた王道RPGが移植されたタイトルで、幅広いキャラメイクや勢力争いを推奨する「戦争システム」、そして活躍したら公式とタイアップした小説サイトでノベル化されたりする企画などなど、盛り上げる施策は結構打っていたようです。
そんなゲームにドハマりした主人公は、天翼族の少女ルファス・マファールというキャラを作り、鍛え上げ……公式ラスボスの魔神王とその配下以外の全勢力を配下に治めるところまで上り詰めた。
その強さから他プレイヤーから「野生のラスボス」や「もうお前がラスボスでいいよ」とか色々言われていたようですが。一勢力が強すぎるとせっかくの戦争システムも機能しないから、と彼は他の有力プレイヤーと共同の「覇王ルファスへの反乱」イベントを主催。
悪役側のトップとして存分に楽しんだものの、さすがに数に圧されて敗北。
そしてそのタイミングで見慣れぬシステムメッセージが視界に現れ、YESと答えたことで彼の意識は途切れ……気が付いたら彼は、ゲームによくにた世界でルファスの姿になっていた。
彼が残した覇王ルファスの君臨と、英雄たちによる打破という歴史はそのままに200年も経過した未来。長命種がいることもあってか黒翼の覇王の伝承は残り続けていた模様。
中身はゲーマーなんですが、何らかの力で補正が働いてある程度は「ルファスらしい」振る舞いができるのは一安心(?)。
勇者召喚しようとしたら、かつての覇王を呼び寄せてしまった国の人々はそりゃ生きた心地しなかったでしょうけど。負けRPをしっかりしてこの世界楽しむつもりのルファスが楽しそうで何より。
問題も多いんですけどね……この世界ではルファスを倒したあとの英雄たちは、そのまま魔神王へ挑んだものの敗走。人類の生存圏はかなり狭くなってしまったようです。
多少はルファスとしての知識も引き出せるみたいですけど、現代の情勢などには疎くて。
かつての本拠地に立ち寄った際にNPCとして残していた少女ディーナと再会して、情報を得られたのはありがたい。
ディーナから情報をもらい、以前の配下・十二星天を回収しつつ今も存命の英雄たちに会おうと決めたルファス。英雄たちはあるいは自分と同じプレイヤーなのかもしれないと、淡い希望を抱きつつ気ままに歩んでいきますが……。
かつては当たり前のようにいた上限レベル1000の戦士がおらず、剣聖と名高い存在すら120レベルとかいう戦いの文明までもかなり後退してるようで。
そんな有様の世界では、ルファスの歩みを阻めるものなどなく。これは確かに「野生のラスボスが現れた!」って感じですよね……。
ぶらりラスボスの旅~魔人勢力は適当に蹴散らします~。うーん、これは歩く災害……いや実際そんなことしないの分かってるから言えることですけど。
ノリが合えばかなり楽しめる作品だと思います。私は好きですね。
巻末SSは「野生の悪魔が現れた」と「野生の恐竜が現れた」。
前者は「よい子にしないと、黒い翼の悪魔に連れてかれちゃう」という、子どもを怖がらせるための歌。それを信じていなかった悪ガキが、ルファスと出会ってしまう短編。
狼少年になりかけていた彼を、意図してないとはいえ正したのはラッキーでした。
後者は200年前、変わり者のエルフ・メグレズが冒険者として活動を始め、アリオトと出会い……彼らが40レベルとかの時に、すでに400レベルを超えていたルファスと遭遇する話。
3人がパーティーを組むことになる話で……こんな穏やかな(恐竜と出くわしたけど)始まりだったのに、最後には道を分かつことになったなら、そりゃメグレズも悩み続ける羽目になっただろうなぁ……みたいな気持ちになった。