ico_grade6_3h
「自分の生き方を見つけて、それに従って生きていきたい。惰性じゃなくて、自分で自分を決められる人間になりたい。……魔導師はそんな人物の代表例、って感じかな? ローラン様も、もちろん、マーリン様にも私は憧れる。……輝いて見えるんだ」

 

とある乙女ゲーム世界のヒロインに転生したキャラが、前世の知識を基に父の協力も得てパルプ紙を流通させて。

それによって羊皮紙の利権を抑えていた、ゲームでは悪役令嬢枠になる少女の家が没落することに。

 

名門中の名門と言われた貴族が、発明1つで没落するものかと気になったんですが。

後に、その評判に胡坐をかいて品質が落ちていただとか、経済的な打撃を受けたことで影響力を落として政争に負けた結果だそうで、作中でしっかり理屈づけてくれてたのは良かった。

政治的に干渉して潰すなり取り込むなりできなかったあたり、没落するべくしてした感じはあります。

実際落ちぶれてからも見通しが甘く、借金こさえて妻と娘を残して蒸発するとかいう最低の所業をしますからね、元当主の父親……。

 

タイトル通り主人公は、悪役令嬢になるはずだったが原作前に没落した家の娘、フェリシア。父が蒸発し、病弱な母を抱えた彼女は、日々を生きるのにも苦労することになります。窃盗とかを働いて糊口をしのいでいた感じ。

そんな中で母の病状が悪化してしまって。近くの「迷いの森」に魔導師マーリンという優れた錬金術師が住んでいる、という噂を頼りに踏み込み……運よくマーリンに気に入られて、弟子入りが叶うことになります。

 

そしてフェリシアはマーリンの教えを受けて、ただ型通りの技術を扱う魔法使いではなく、真理を追究する魔導師として成長していくことになります。

一度落ちぶれたことで、生まれ変わったフェリシアの在り方はかなり好ましいですね。困窮の中で家族に暴力を振るわれたりもしてきたようで、傷ついた彼女が救われていってほしいものです。

 

一方でそんな状況を齎したゲームヒロインのアナベラに転生した少女は……いろいろと考えが甘い。勉強も半端だし、自分の発案したものでフェリシアの家に与えた影響を知ることもなかった。小物すぎるんだよなぁ……。

フェリシア的には「悪かったのはうちの経営のやり方」と、アナベラ自身を恨むようなこともないくらいの存在で。そうやって割り切れたからこそ、友人として扱えてるわけですから実に格好いい。

ただそんな彼女もまだ若い少女であり……再会した父の生存を喜ぶ半面、かつての行いは許せなかったりするのもまた人間らしくて良い。

 

そしてフェリシアはアナベラと和解(前世知識のあるアナベラが必要以上に恐れていただけとも言えますが)し、彼女の秘密を打ち明けられたわけですが。

しかし、フェリシアが魔導師としてこの世界の理を追求してきたからこそ、「前世の記憶」という事情に疑問を提示することになっていたのも面白かったですね。

それだけに2年前に1巻出たきりで、WEBの更新も止まってるので後追いしても途中で止まってしまうの惜しいなぁ……。
……と読了後に思ったんですが、よくよく調べるとなんか今月末に文庫版の1巻が出るっぽいし、なんなら3月に文庫版2巻の発売予定もありそうなので、ワンチャンあるか……?