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「躊躇っちゃあいけないよ、晶坊」

結局のところ、晶が欲しいのは背中を押す手なのだろう。

強かろうが、弱かろうが、優しかろうが、厳しかろうが、

「今まさに、坊の睫で幸運の神さんは踊ってくれているんだ。いなくなる前に、微笑んでもらわんとな」

一歩踏み出すための、力が欲しいだけなのだ。

 

極東の海に浮かぶ高天原。五柱の神が五つの国を見守る島国。

そこに住まう人々は必ずその身に精霊を宿して生まれるとされていたが、主人公の晶は精霊を宿していなかったために、家族から迫害されていた。

 

高天原には中央の国を統べる三つの宮、東西南北それぞれの国を管轄する四つの院と、それぞれの院の下に二つずつある家――八家と呼ばれる貴人の系譜が存在するのですが。

晶の生まれたのが、北の黒天州にある八家の中でも長い歴史を持つ雨月の家だったことも、悪い方向に働きましたね。

歴史ある家からこんな無能を出してしまうとは、と当主は彼を見限って。黒天州から追放する決断を下すわけです。

 

唯一晶を気遣ってくれていたものの、亡くなった祖母の伝手を頼り南の珠門州へと向かうことを決めて。

道中で符術の才に目覚めた晶は、実家である雨月を見返してやるべく防人を目指して努力する日々を続けて。符術用の札を協会に売って生活資金を稼ぎつつ、守備隊で活動してたわけですが。

 

精霊を宿していない晶は、民として登録する「氏子籤祇」という儀式を受けても登録することが出来なかったのがトラウマになっていたわけですが。守備隊での実績を認められて、そこで改めて「氏子籤祇」を行うことになった彼は、不思議な現象に遭遇し……。

「精霊を宿していない」という彼が抱えていた秘密、その一端に触れることになるわけです。

彼が出会った朱華が楽しそうで良いですよねぇ。でも黒天州にも彼を思っている人は居たわけで……「くろ」と呼ばれる少女も好きなんですが、今回は挿絵なくて残念。続き出てほしい作品ですねぇ。

文章が堅いというか独特の味わいがあって、面白いファンタジー作品なので楽しかったです。