「仮令私の付与魔術が強かろうとも、それを活かせたのはあの三人の努力の積み重ねです。彼らを侮らないでください。彼らは強くなったんです」
「そのセリフは本人たちにいってあげなさい。私たちは彼らを鍛えた者として、的確に彼らに何が起こっているか、君より正しく把握しているからこそ言うんです。君の力がどれ程のものなのか、君自身が事実を認めないのは道義的に良くないことですよ」
前世知識を得たことで、領地改革に乗り出した主人公。
手をまわして代官に自分の手の者を指名させるようにしたり、特に初心者向けの冒険者たちへの支援、カレー粉などを販売する企業エフェ・パピヨンを設立したりと色々と手は打っているものの、主人公の親世代の所業によって衰えつつあった領地を即座に救う万能薬は存在しないわけで。
地道に出来ることをやって、領民のために動こうとしている主人公は良い子なんですよねぇ。最終的な目的の一つに、教育を充実させて余裕を持たせることで、芸術を楽しむ素地を作り上げていこうとする、趣味も織り込んではいますけど。
まだまだ未成年の彼が、そうやって奔走しなくてはならないほど領地が困窮してるのは、父母のダメさに頭痛くなりますねぇ。死にかけて記憶があやふやなの抜きにしても両親の名前すら知らないっていう主人公の境遇とかを思うと、彼は本当に多くを背負いすぎなんですよねぇ……。
既に亡き祖母が優秀で、多様な人材を確保していたようですけど、両親によって追いやられたりしていたようですし。前世知識でかなり早い段階で動き出した今ですら、大分ギリギリだったというあたり悲惨さがある。
伯爵家でありながら衰退しつつあるため、隣の領地の男爵家からも侮られたりしてますし。
……敵がそういう手を使ってくるならと目には目を歯には歯を、と罠を準備したら盛大に踏み抜いて、予想以上の被害を巻き起こすくらい愚かだったのは予想外か。
男爵はダメダメでしたけど、その親族でもあった公爵はまともな感性を持った大人で、主人公への助力を約束してくれたのは良かったですけどね。
ロマノフ先生とか、主人公を庇護しようとする一方、彼の能力を買っているからこそ、試練を課したりしてくるからなぁ。ハッキリ言うのではなく促す程度にとどめるのは、主人公の意思を歪めないためではあるんでしょうけど、その子既に大分歪だからもっと直接的に言葉にしてあげた方がいいんじゃないかなぁ、と外から見てると思う時がある。
……ちらほら言われてはいるけど、それでもまだまだ彼の心を解かせてないし。先が長い。