「蒼依のことは、一生手放さないから安心しろ。俺のことは、家族と思えと言ったはずだ」
人違いで死後、地獄の刑罰に晒されることになった主人公。
ある程度責められた後に間違いが発覚したものの、地獄の穢れを浴び過ぎた主人公をそのまま極楽浄土へ送ることはできなかった。
それ故、妖怪変化が跋扈する世界に転生させるので、しみついた穢れに寄ってくる邪を祓っていくことで、魂を浄化するようにと申し渡されることに。
あまりにも勝手で一方的な話でしたが、せめて転生時に与えらえる力を増やすように要望し、叶えられることとなったわけですが。
主人公も指摘してる通り、この裁定者本当に勝手なんですよねぇ……視点が違うし。異種交流の難しさよ。裁定者叩いてもなにも発展しないから、ここはボロボロの状態で能力増やせと言えた主人公を褒めるべきか。
そして主人公は陰陽師の家系に生まれ、加茂一樹となったわけですが……。
転生先は、妖怪やそれに対処する陰陽師が公に認められた現代風の世界。
日本の国土のうち三分の二が妖怪の領域となっているあたり、わりと危うい状況のように見えますね。最初の依頼とか、山姥が人間社会に溶けこんで戸籍を得たりして、疑われないような状況を作ってるし。
後半のエピソードでも人間社会に潜り込んでいる妖怪いましたし。公称よりも人間の領域狭そうな気配がある。
そんな世界なら、基礎スペックが底上げされた一樹も問題なく目的達成できるか、と言えばそうでもなく。そもそも資格がなくて、まだ父の手伝いしかできてないスタートですからね……。
それでも高位の式神を従えることに成功していたり、その才能の片りんは見えてましたが。
実の父は陰陽師ではあったが、自分の腕より上の仕事にこだわり出費を増やして赤字になるなんてざらの自転車操業をしていて、しまいには離婚に至る始末。
一樹は邪を祓う目的のために陰陽師の父の下にのこったそうですが、そうでなければ母についていった方が良い案件だろうなぁ、感がある。
実際、息子が式符を書くための紙にすら困り、学校で生徒が使えるコピー用紙5枚を使ってるとか、色々と駄目。
一樹は試験を受けられるようになったら、当然のように1位を取っていましたし。
活動開始してからもなかなかの成果を上げているし……試験の際に縁が出来た名家の少女を助けるなんて功績もあげている。
始まりが始まりなので冤罪を嫌い、身内を大事にして、出来る範囲での善行を為そうとする一樹は結構いい主人公だと思いましたね。
イラストも可愛かったです。特に猫又を蒼依が愛でてる奴は好き。
書き下ろし短編で『借屍還魂』と『相川家の食材調達』の2編が収録。
両親が離婚して妹は母に引き取られたそうですが……その時に、一樹が父についたことで母はあらぬ疑いをかけられたりもしたそうで。
そのために母子関係は悪いとか。一方で、一樹と妹の兄妹関係は良好で、母にバレないように密かに交流が続いていたようです。
そんな妹から、陰陽師向けのトラブルについて相談を受ける話が『借屍還魂』。
『相川家の食材調達』はある程度放任している式神の八咫烏が一羽、戻ってこない。それを心配した蒼依に促されて、探しに行く話。能力は高くともまだ幼いんだなぁという感じでしたね。