普段は極力抑えようとしてるのですが、
今回はネタバレ全開で感想を書きます。



ご了承の上、お読みください。

 

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だがそれは大した問題ではない。ここで立ち上がらなくても、戦うことをやめても、そう遠くない日に自分は死ぬ。だから、死ぬことに大した意味はない。人が生きるとは、ただこの心臓が鼓動し、ただこの手足が運動する状態を言うのではない。

もし自分が今生きて、この先も生き続けるのだとしたら。

それは、後に続く者に何かを残した時だ。

「――だから、俺は行くよ、雪」

 

ウィザーズ・ブレインのネームドキャラ、それぞれに個性があって各巻で主役を張るようなメインキャラはみんな好きなんですが……。

その中でも一番好きなのが黒沢祐一という騎士でした。
そんな推しが死にましたね。えぇ。死んだね(私の心も死んだ)。

黒の騎士、黒沢祐一。
英雄と呼ばれるだけの戦果を挙げた大人ではあるけれど、その戦いの中で多くを取りこぼしてきた男。

それでも戦うことを止めず、子どもたちを導くなどして歩みを止めなかった人物。錬とかは未熟故により良い未来を信じようとする青葉ですけど、祐一はその人生の中で苦い思いをしつつ生き延びてきた大樹のようで、頼もしかったんですよね。

 

とはいえ、彼には不安もあって。フリーズアウトとみられる初期症状がみられていましたし……9上巻での戦闘中についに倒れてしまったことで、彼のI-ブレインは機能を停止しようとしていることが明示されることになって。

何もしなくとも余命は三か月より伸びることはない。意識障害も発生するから、活動できる時間としてみればもっと少ない。ゆえに、彼はもう戦うことなんてできないはずだった。

 

けれど……運命の導きによるものか、彼の意識が覚醒しているタイミングで賢人会議を抜けたセラと話す機会が出来て。

彼女の悲痛な叫びを聞いた祐一が剣をとってディーを止めに行ったところからは、熱かったですねぇ。死に瀕した中で雪と交流し、「最強の騎士」としての戦い方を示してくれたの本当に格好良かったんですよ……。

なにもかも欠けた果てに見えた幻であるのか、あるいは死の際でこそ見えた彼岸の交流だったのかは、もはやどうでもよくて。ただただ、あの戦いに引き込まれました。

森羅を駆使して倒れないディーを相手取りながら、賢人会議の魔法士百人近くに囲われて、付け入るような隙を見せなかった、というのは凄まじかったですね。

 

その果てに死が待つと分かっていても、ディーを止めに行った祐一のことが本当に好きです。戦いの中で息絶えたというのは、ある意味で彼らしくはあったとも思いますが……。

彼がディーを止めに動いたのはセラからの願いのほかに、この2人の幸せな未来を自分が見たいと祈ったからだって内心で思っているの、本当に尊くないですか……? 

世界中が戦争の熱に浮かされて、ディーはその最前線で戦っていて、多くの恨みを買ってもいる。でも、そんな彼の幸せを願う人もいるんだっていうのが、本当に好きです。

 

頼れる人物として戦争の終わりまで見届けてほしかった気持ちも沸きは、しましたけど。

セラ以外にも月夜だったり、英雄という重みに向き合うことになったイルだったりと終わりを迎える前に言葉を交わせたのは、せめてもの救いでしょうか。

いや、実際死んでいてもおかしくない状況にあったイルが生還できた理由、大分しんどくなかったですか? 彼に助けられた人々が、その命を掛けて彼らの英雄を守るために力を合わせたっていうの、重いわぁ……。それだけのものを積み重ねてきたという功績の表れでもあって、思いの強さが伝わってくるからエモいけど辛い。

イルが思わず叫んだのも分かるし、そんな彼に助言できるのは祐一しかいなかったでしょうしね。

 

どちらかと言えば普段は助言する側だろうリチャード博士が、祐一の経験は掛けがえの無いものだと評して、彼がフライヤーで飛び去るときも必死の形相で「頼む!」と引き留めようとしてるのも、黒沢祐一という男の格の高さが光って良いですよね……。

一方でフェイはある程度割り切って、セラへの情報説明も淡々と行うのとかキャラが立ってる。

 

ずっと祐一と最終決戦の話しかしてないな……。

本編は、賢人会議が南極衛星と雲除去システムを抑えたことで、シティ側も新たな動きを取る必要が生じた状況からのスタート。

戦力が疲弊していても情報工作は出来るよね、と仕掛けてくるのがいやらしかったですねぇ。真昼が死に、サクラも遠く離れた地に行ってしまった。ディーは戦力として優秀でも指揮官向きではないですし、大分ギクシャクしてましたけどね賢人会議。

それでも戦力は揃ってたからこそ、シティ側の起死回生の一手に対して痛打を浴びせることに成功したりしてるのが厄介なんですが。

シティに囚われたフィアがいろいろと話を聞いた結果、自身の判断で協力することになって。錬も戸惑いながら彼女を必死に守ろうとした。それでも、全てが救われることがないというのが絶望的ですなぁ……。

 

「先達には敬意を払え」、とか。マサチューセッツのファクトリーシステムの提唱者だったり。錬たちに感情移入してるとどうしたってシティ上層部とか悪役に見えてしまうんですが、この窮地に陥った世界で矢面に立とうとするだけの気概を持つ傑物が多いのが良いですよね。

……以前、三枝先生がSNSで高潔な指導者がいないシティは滅びた、とか。子供たちが全線で戦う中大人はどうしてるんだ、という状況に説得力を持たせるために世界を追い込んだ、的な発信をされていたと思うんですが……いやはや、本当に突き抜けてるなぁと思いました。



あと9中巻は発売直後にアニメイトで購入したんですが……特典SSが「灯火」というタイトルで、祐一の死後にイル・ヘイズ・クレアが語っている一幕が描かれていて、(別に特典制覇とか、狙ったとかないのに)めっちゃ刺されて読後にもう1回死にました。良かったですけど死んだ。