書き下ろしの『幸福な街』とWEBに掲載もされていた『Void』の2編を収録。
さらに電子書籍には限定短編で3万字ほどある『愛の指輪』も収録されていて、他のエピソードの裏で起きていた事件について描かれているので、紙派の人でも今回だけでも電子買うのは結構オススメです。
逸脱者たちの旅路も、大陸歴で2000年を超えてきましたね……。まぁ2巻の「神に背く書」からして1963年だったわけで、時間の問題ではありましたが。『幸福な街』は2064年なので、サクッと100年立つのがこのシリーズだよなぁ。
3巻は慣れ親しんだ魔法大陸を離れて、1冊丸ごと東の大陸が舞台のエピソードとなっていました。
かつて来た時には、長い歴史を持つ大国ケレスメンティアが君臨していた東の大陸。しかし、その国が滅び……荒れた大陸に満ちていた諦観は、変化の熱によって動くように変化していた。
とは言え、長い争いの爪痕は大きく、大国として落ち着き始めている場所もあれば、立て直そうとしてうまくいかなかった地域もあって。
そんな状況の中で、外部者の呪具を探して旅をしていたオスカーとティナーシャが、親代わりの男性2人と姉が行方不明になったしまった兄弟を保護することになって。
逸脱しているからこそ一線を引こうとするオスカーと、人との交流が避けられないんだから選別して関わっていくのはいいと思う、とティナーシャが言うのが意外ではありましたね。
一度関わると見ると決めた以上は、しっかり教え込んでいるあたりは面倒見がよいというか。彼等らしい人の好さが見えて好きでした。
『幸福な街』を超えた後に『Void』が収録されているの、味わい深いというかなんというか。「章外:月光」まで収録してくれていたのは、良心的でしたね。
電子書下ろし『愛の指輪』は、本編中でさっくりと流されていた、口絵に登場する呪具に関してのエピソードでこれもまた良かったです。
……と、当たり障りない範囲だとこれくらいしか語れないので、ネタバレ込みの感想をちょっと下の方に書きますね……。
ネタバレ多めです。ご了承の上お読みください。
逸脱した2人はこの世界の異物となっていて、魂を宿せないから子供を作れない。そんな2人が、子どもを拾って教育しているの味わい深くて良かったですね。
オスカーが剣を教えるつもりが無かったと言いつつ、ティナーシャの助言もあって関わることになって。何も知らぬ少年が良い先達と出会い剣の腕を上げていったり知識を増やしていくの、疑似Rotted-s感があって懐かしくなりましたね……。Rotted-s読み返そうかな。
外部者の呪具によって創られた『幸福な街』。管理者2人が捕らわれて、その感情を伝播させるという厄介な状況で。ベモン=ピィという街そのものは、ディストピア味が強く「市民、幸福ですか?」と言いたくなりました。
そしてオスカーとティナーシャの教えを受け、管理者と成り果てた姉との会話を経た教え子である兄弟、ロツィとファーラスが自分たちが管理者となって『幸福な街』を終わらせようとしていたの、良い教えを受けた現れだと思っていて好きです。
……まぁそれを逸脱者2人が許すはずもないんですけど。自分たちが管理者となり終わらせる選択をしたの、あの2人ならそうするという信頼はありつつも、最愛のティナーシャの命を対価とするのあまりにも重すぎる。
そういう選択ができるオスカーとティナーシャだからこそ、この世界の呪具として対処できている部分はあるんでしょうけど。その別れの時のやりとりが、彼らの覚悟と愛を実感する描写で心に刺さって痛いけど、好きです。
なのでオスカーとティナーシャ、ロツィとファーラスの視点からでも『幸福』を味わえるエピソードだとは思いましたね。終わりに別れが約束されていただけで……。
そして呪具と繋がったティナーシャが、干渉してきている外部者について断片的に知ることになっていましたが。
「あくまで外部者の呪具へのカウンターなんだから、それが減ってきたら君たちの転生にも時間がかかるようになるよ」って言うの、言われてみればそうなんだろうけど、あまりにも残酷すぎる。
この後に「同時代かつ近い国に転生できたけど、記憶取り戻す前に致命傷を負ったから生きているうちに再会できないよ」って内容の『Void』が来るの、WEB既読勢として分かっていたので、この真実を知った上で読むのか?! って『幸福な街』読了後に震えました。
電子特典「愛の指輪」は口絵と本編でさらっと触れられていた、別の呪具についての話。3巻でまさかの2つ破壊っていうのは驚きでしたねー。これで7つ破壊して、折り返しに到達。だからこそ、「耐え難い孤独が待つかもしれない」という外部者の発言がより重みをましてるんですよね……。
未来のエピソードを知っていると、納得できてしまう部分あるからな……。この先どんな展開となるのか、一抹の不安を抱えながらも楽しみに待ちたいと思います。
4巻出るとして、収録されそうな時期の話、『Void』のように知ってる部分もあれば『幸福な街』みたいに何も知らない……って期間もあるので。逸脱者の設定的に、断片的なエピソード挟みやすいから、良い設定だなぁと改めて思いました。