「やることがたくさんある。めんどくせえ、だがその全てがたのしみだ。その全てが俺の欲望に繋がる道だ。道中の苦労、困難、試練、それを達成した時の悦び。ああ、そうだ、その全ては俺のもんだ」
夢を叶えるために超えるべき試練、それらすべては挑む者にのみ与えられる報酬でもあるのだ。
魔物が蔓延るダンジョン「バベルの大穴」が観測された現代。
そこではダンジョンに挑む探索者という職業が生まれており、主人公の遠山鳴人もまたその一人だった。
上級探索者になりベテランと呼ばれてもおかしくない位置にいたが……仲間を逃がすために残り、致命傷を負ってしまって。
さらには沈殿現象と呼ばれるダンジョンの異常にも巻き込まれ、死ぬことになったわけですが。彼の在り方を超常の存在が面白がって、異世界に放り込むことに。
遠山はゲームなどで切り札を出し惜しんだ結果、使わずにクリアしてしまうタイプの人間であり、自らが死に瀕した際にも切り札の使用を躊躇ってしまったこと。
死の間際に、叶えたかった欲望を思い返していたこと。異世界で覚醒した直後は、死の間際に夢を見ているようなものだと割り切っていたこと。
覚醒したタイミングの遠山が、異世界の冒険者たちに奴隷と扱われる境遇だったこと。精神は現代のもので、異種族への偏見がなくリザドニアンから上手い飯をもらったこと。
様々な要因が作用して、遠山は異世界で自由に強欲に戦うことを決めた。
一方でそんな遠山に多大な刺激を受けることになるのが、蒐集竜アリスだったわけですが。
異世界においてトップクラスの実力をもつ竜。異種である彼女は、その力ゆえに孤独を感じていた。
ちょっと興味本位で冒険者の狩りにちょっかいを掛けようかと思ったら、それが遠山が蹂躙した冒険者一派の作戦で……混乱に満ちた場所において彼女は、面白い行動をとっていた遠山と、彼と連れ立って逃げたリザドニアン・ラザールに試練を与えることにしたわけですが。
ラザールの決断も、遠山の決断も好きだし。その行動の結果、遠山がアリスに興味を抱かれることになって。
竜が殺されることは、すなわち竜の番が決まるということでもあって。異世界側の人物たちは戦々恐々する羽目になって……。遠山も逃げようとはしたものの、一度は捕まって。相手の強さを踏まえた態度を取っていたけれど、最後の譲れない一線を侵されそうになった時には、対抗も辞さない覚悟があるの好きですね。
自分の中にハッキリとした軸があって、自分の行いによって起きるデメリットにもある程度自覚的で(異世界の常識に疎くて騒動引き起こしもするけど)、戦い抜く姿勢を示す遠山は結構好きな主人公ですね。
超常の存在に与えられた矢印の導きに頼るときもあるけれど、自分の方針にそぐわない時は、「従うかよ」って抗ってくれるのも個人的にはポイント高い。
遠山を異世界に送り込んだ超常の存在、大分きな臭いというか。推定:彼女は、ダンジョンの事を「私の箱庭」と呼んでいるし。「貴方」と呼ぶ人物に執着しているっぽくて、遠山に『貴方』になりうる可能性とやらを見出してるし、いろんなナニカが干渉しているのを把握しているっぽいし。
遠山は異世界に放り込まれそこで様々なイベントに遭遇することになりますが、どこまでが掌の上なのかは気になるところ。
ダンジョン内部で発生したサブクエスト「あるいは懐かしき再会」で出会った人物も、遠山を知っているような素振りをしていたりしたし。
彼を興味深く見ている人々の台詞、読み返すといろんな含意があるんだろうなぁというの、創り込まれた世界観の気配を感じるので、書籍版読了後にはWEB版も見に行きたいですね。