「貴婦人さん……あんたはどうするんだい? 俺たちに何かを求めているのか?」
(略)
「わたしたちはただ委ねるだけです」
「……忠告ありがとう。肝に銘じておくよ」
ベルグリフは若い頃はEランクの冒険者として活動していたが、魔獣に右足を食いちぎられたことで引退し、故郷の村に戻って畑仕事を中心に細々とした仕事を引き受けていた。
足を失いはしたが義足をあてて、戦闘経験のない村人に変わって魔獣対策のために山に入ったりしていたわけですが。
そんなある日、彼は山中で捨てられた赤ん坊の女の子を拾って。狭い村だから村の関係者ではないことは分かったものの、わざわざ山中に捨てるなどどんな理由があったのか。
気にはなりつつもベルグリフは彼女をアンジェリンと名付け、自分の娘として育て上げた。
そしてアンジェリンは、父の姿を見ていたからか冒険者になりたいと言い始めて。自分も通った道だということもあって、色々と教え込んで送り出すことにして。
……彼女自身の才覚もあって、アンジェリンはSランクにまで上り詰めた。
そんな彼女がことあるごとに「お父さんは凄いんだ」というせいで、現役時代は低ランク冒険者でしかなかったベルグリフの評判も変に上がっていって。
娘さんにお世話になったから、と領主の血縁の人が訪問してきたりとかするトンデモ事態に遭遇したりしていたの、他人事だからちょっと笑っちゃった。
アンジェリンは大分ファザコンを拗らせていて……なんとか帰省しようと奮闘していましたが。高ランク冒険者には、その地位に見合った義務も与えられることになっていて。
彼女が拠点としている街で近ごろ高位の魔獣による被害が増え続けていて、アンジェリンに負担が強いられ続けることに。
ギルドマスターも対応はしていたっぽいですけど、結果として後手に回っているし、現場で動いている人員に負担を強い続けたわけですから擁護しがたい感じがするなぁ。
でも、なんとか休みをもぎ取って帰省しようとするたびにトラブルに遭遇し、帰りそびれているアンジェリンは可哀想で可愛かった。