「瀬奈さんのこと教えてくれるの?」
「別になんにも おもしろいことないけど…」
「…はは いいですそんなの!」
ドロドロしているというか、湿度の高いキャラが多い印象のある作者さんの新作。7本の短編が収録された短編集ですね。
最初の収録作が『人魚』。付き合っていた相手が詐欺師で、気晴らしに来た先で置き引きにあって黄昏ていた女性が、変人の金持ち「王子」に拾われて。
王子の道楽で作られた、気に入った女性に人魚コスプレさせてプールに置いたりするような別荘で過ごすことになるわけですが。先輩「人魚」にコツを教えてもらいつつ過ごす中で心境に変化が生じて……。王子が最後まで嫌な金持ちキャラで笑った。
他には短めの『埋み火after』と『蓮の花after』も収録。埋み火最終ページの女性表情が柔らかくて好き。
……でもこれ読んで気付いたんですが、私ハルミチヒロさんの前作『初恋』買いそびれてますね?! 埋み火知らない!! 買わなくては。
『夢の女』ホラーじみた夢を見続けていた男が、それを書き記していたデータをうっかり職場の女性に見せてしまって。そこから交流が始まるというお話。
良く見せようという欲が出たからか、少しずつ夢を見なくなっていったって言うのとか、最終ページの独白とかが良い味だしてた。
『one’s
place』は、シングルマザーの母と暮らす少女・美夜が主人公。母は恋愛好きでフラフラしていて、美夜は母の親友である女性・暦ちゃんと過ごす時間が多かった。そんな中で暦が取っていた母との手紙なんかを見てしまって、悩みを得ることになったわけですが。それぞれが良しとしているけれど、外から見ると思うところあるのもむべなるかな。
表題作の『カノン』は事故で負傷し、記憶喪失状態になった男性が記憶にない妻と一緒に家に戻って、知らないことを色々教わっていく話。最初は事故った男性がかなり若く……どころか幼く描かれていて、それなのに妻が居て子供もいるっていうので驚きますが、話を追うと事故の影響ってのが良くわかるんですよね……。
仕事人間が退職した後に空いた時間持て余すからか、呆けがちってのは聞く話ですし。
巻末の『約束』が今回の話だと結構好きでしたかねー。同僚の女性と酔っぱらった状態で「家に呼ぶ」という約束を交わして。翌日それを実行することになって……。
松永さん、酒癖悪い男はやめときなー? って思う気持ちはあるけど、そういう凸凹が上手くハマるのも面白いからな……。