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「俺は、生きるべきだと思う。様々なものを見て、触れて……生きていく喜びをその手に掴むべきだ。もちろん、楽しいことばかりじゃねぇだろうし、辛いことも多いはずだ。この世界は、俺達の世界じゃねぇ。価値観自体が全く違う。正直、生きやすいとは思わない」

不安要素も隠さず、愚直にカイルは、ただ話した。

「だが、それでも……美しいと思えるものも、心震える瞬間に出会えることもある。そういった経験を、お前に体験してほしいと思うよ」

 

生来体が弱く入院生活を送っていた刹那は、両親の経営する病院の一室にずっと入院を続けており……そのまま24年の生涯を終えた。

彼の魂は異世界の勇者として召喚されることになって、新たな人生を得られたのですが。

病弱なままなことは変わらず。68番目の勇者として勝手に招いておきながら、使えないと判断された刹那はほぼ軟禁状態に置かれることになってしまって。

 

2度目の生は、生きながらにして死んでいるようなものだった。さらには69番目の勇者が召喚された、なんて噂も流れてきて……。

このまま死んでしまうのか、というタイミングで23番目の勇者だったというカイルが現れて。彼は刹那の記憶を覗いてどういう状況にあるのかを把握。

このままじゃ殺されるだろう刹那に、カイルはその身を挺して現状を打破する力と知識を与えてくれることになって。

 

日本出身の杉本刹那ではなく、異世界でただのセツナとして生きていくことを決意したことで、物語が動き出すことになります。

カイルには強力なアイテムとかも託されて。セツナ自身が力の扱いに習熟しきってないという問題こそあれど、スペック的にはかなり高くソロでも問題なく生きていける環境を得られた。

生まれてからずっと病室暮らしだったセツナが、外の世界へと歩み出していくのが面白いシリーズですね。彼にとっては見るもの感じるものすべてが新鮮である事だったり、カイルの知識だとかを与えられていることだったり、そもそも死に瀕していた状況で達観した部分がある事や性格的な問題だったりが影響して、好奇心旺盛ながら大人びてるんですよね。

 

冒険者ギルドへの登録をして、戦闘も出来るけれど登録上は「職業:学者」にしてますし。馬鹿にするような言動があっても、自分の本当に大事なものを侮辱するものでなければスルー出来る心の広さもありますし。競争心が見えない、ということでくすぶっている若手に文句つけられたりする御約束もまぁありましたけど。

概ね良い出会いをして異世界を満喫していく中で、サブタイトルにある「獣人の弟子」をとることになって。庇護する相手が出来たことで、ただフラフラしているだけではいられなくなったのがセツナに良く作用してくれるといいですね。

 

セツナを召喚したガーディルという国は、勇者の扱いが大分アレだし。それを69回も繰り返しているので、上層部は大分ヤバそうな気配を感じています。

巻末に追憶として、69番目の勇者に近しい人物のエピソードが描かれていますけど、どうにもなぁ……。