「心配するな。この日の感動があれば、大丈夫だ。世界がこんなにも美しいなら、何を迷う必要がある?」
完結記念に再読。
峰島勇次郎というマッドサイエンティストの発明によって、様々な変化が齎された世界。
彼はとある一件から消息不明となっており、彼の残した技術はそのまま「峰島の遺産」のように評されることとなった。
遺産を用いたテロなんかも勃発するようになって、マッドサイエンティストを輩出した日本はいろいろと対処に追われることになったようです。
そのために設立された組織がADEMであり……その奥にはとある少女が封じられていた。
それから時は流れ、閉鎖型の自然環境循環を再現した研究所スフィアラボにて、テロリストたちが行動を起こして。
一介のバイトであった少年、坂上闘真も巻き込まれるわけです。スフィアラボは峰島メイドのスーパーコンピューターLAFIが設置されていて……それを狙った行動であったようですが。
テロリストの行動にスフィアラボの人員では対処できず、闘真の頼れる先輩横田など、多くの人命が失われることとなったわけですが。闘真はそんな理不尽な状況から辛くも逃げ延びることに成功して。
生の情報を知っている人物だから、ということで闘真はADEMに連行されて協力を要請されることになったわけです。
そこで彼は、ADEMの奥で封印されていた少女……峰島勇次郎の娘、峰島由宇と対面を果たすわけです。
闘真は闘真で、遺産への関与を避けつつも情報を武器に世界に名を馳せている真目家の血を引く特異さを持つ少年でもあったりして、二面性も持っているんですが。基本はのんびりすぎる部分はありますが、善良な一般人であって……封じられていた少女の事を心配する心があるんですよねぇ。
つまり遺産というオーバーテクノロジーによって変わった世界で、特殊な出自の少年と少女が出会うボーイ・ミーツ・ガールものなんですよね。
峰島の技術を熟知している由宇は、素直に協力してくれるのであればこれほど頼もしい相手もいない人物ではあるわけですが。
それだけに扱いに苦慮する相手でもあり……ADEMも基本は地下深くに閉じ込めているし、外に出す時も情報漏洩を避けるために時限式の毒を投与する徹底ぶり。
明晰すぎる頭脳と、少女時代から監禁生活を送ってきたことで情緒という面で不安の残る少女、峰島由宇。
そんな彼女を「峰島の技術を持つ存在」ではなく、一回の少女として扱う闘真は微妙にズレた状態で噛み合っているというか。
女の子が監禁されているような状況は心配だ、という闘真の思いが由宇には「私は女らしくないと言いたいのか!?」と受け取られてしまった一幕があったのはちょっと笑えました。……まぁ闘真も「由宇は女の子じゃないか」みたいな感じで、煮え切らない返答を繰り返してたからコミュニケーションに齟齬が生じたわけですけども。
闘真は戦闘能力高いし、由宇も頭脳担当かと思いきやその頭脳を使って自分の肉体の動きや物理法則を正確に計算し、理想的な動きを再現するなんて離れ技を駆使してのけるからどっちもバトル行けるんですよね。
由宇の問題解決能力が高いですけど、テロリストの首魁である風間は彼女の予想を超えてLAFIに適応していったりするので、由宇も万能の存在ってわけではないんですよね。一回脱走しようとして失敗してるし。
同じように未熟なところのある闘真が近くにいて彼女を支えて、事件解決に辿り着けたのは良かった。