「一つだけ助言を。あなたという人間の本質は、否応なく鳴神尊の継承者です。ゆえに真目不坐や勝司などの言葉はまやかし程度に思いなさい。他人の視点はあてにならないと知りなさい。あなたはあなたの目で見て考えて解釈するのです。そのためにまず鳴神尊の使い方を熟知するのです。強さを追い求めるために作られた小刀。ならばその本質は強さの中にあります。本質をしれば、あなたは鳴神尊を自在に操れる。私はそう思うのです」
再読。
脳の黒点と禍神の血だったり、峰島勇次郎の研究との関係といった話の軸というのが明確になってきて……この10巻からは「true side」とつけられて展開していくんですよね。
また、9巻までのイラスト担当していた山本ヤマトさんが多忙のため、ここから増田メグミさんに変更となってます。
闘真との決別を選んだ由宇は、自由に外を歩いた結果として得た絶望を抱えたまま地下深く沈み込んでしまって。
これまでの鳴神尊の継承者は脳の黒点が内向き……つまりは自己の変革のために作用していた。けれど、闘真はそれが外向きであり変革を周囲にもたらしていく存在になっているということに由宇は気付いていて。だからこそ、次に対峙した時には殺さなくてはならないと悲痛な決意をしていたわけですが。根が善良なので、抱え込んじゃうんだよなぁ……本当に。
一方の闘真も、敢えて父・不坐の下に飛び込むことで自分の血についての理解を深め、由宇の敵になるだろう父に備えようとしていたわけですが……元の性格もあって、なかなか進展はしていない模様。
口絵でホットケーキ焼いてクレールと才火に提供しているの、ほのぼのしすぎてて笑っちゃった。
今回の遺産騒動の舞台はシベリア。
短編集「memories」にて、日本に亡命してきたマッドサイエンティスト、セルゲイ・イヴァノフが遺した研究所に放置された技術が、二十年の時を経て表舞台に躍り出てくることに。
ロシアの駐在武官から、その事件に関する映像を見せられた伊達は、懐かしい女性の姿を確認したわけですが。
ロシア側はADEMに協力を要請を出してきたわけですが……機材の持ち込みに制限を掛けられたり、派遣人数は文官三名と制限を掛けられたり……さらにはそのうちの一人に重要人物である岸田博士を入れろと言ってきたり、なかなかのみ込みがたい条件を付けて。
昨今の情勢で、日本ひいてはADEMの立ち位置は微妙になっているし、遺産関連も織り込んだ第三京都条約が次の安保理で締結される状況だから、条件飲んでくれるならそっちで協力するよ、とは言っているわけですが。……胡散臭いなぁ、という気はする。
実際、ロシアの新たなマッドサイエンティスト、イワン・イヴァノフの描写があったりして、またややこしくなりそうだとは思いましたね。
諸々の状況を踏まえて伊達は条件を呑んで人員を派遣したわけですけど。
マモンと八代が減圧室からようやく脱出できるタイミングだったのは、運が良かったか。……というか先の事件から2週間程度で、規模の大きい遺産事件が起きるんだからADEMに暇なしですね……。
第三京都条約の決議が2週間延期されたことで、第二京都条約の期限が切れた1週間の間だけ使える、Bランク相当の技術を使った耐衝撃スーツを引っ張り出してきたのには笑いましたが。法には従うけど、裏技も駆使してくる強かさは好きです。
ADEM側が行動を開始したのと同時に、真目家に戻った闘真も勝司から情報を得てクレールの母とクレールを再会させようと、シベリアの渦中に飛び込むことに。
先代の継承者、蛟の妻でもあるわけですからヒントを得たいという事情もありましたが。
あの短編から果たして彼女は一体何をしていたのかと思えば、ミネルヴァの創設者でもあったとか言う情報が出てきて。海星みたいに遺産犯罪撲滅を誓う組織だったものの、遺産の毒に飲まれてあんな犯罪者集団に堕ちたとか。
……それを思うと、幼少期の由宇を保護した上で今まで変節することなくADEMという組織の在り方を貫き続けている伊達って、思っていた以上の傑物なんじゃないですかね。
ADEMから派遣されたマモンはイワンを探った結果消息不明に。八代、岸田博士はそれを確かめるべくイワンに近づき、こちらも姿を消してしまって。
闘真たちも無機物生命体の危機にさらされるど真ん中に飛び込んでいるわけですし、どこもかしこもスリル満点でどうなるのかハラハラしますね……。