「……伊達」
「なんだ?」
「決めたぞ。私は私の枷をとる」
11巻が2012年3月刊行だったらしいので、実に12年ぶりに刊行されたシリーズ最新刊。最終巻となる13巻と同時発売してくれたのは、本当にありがたかったですねぇ。
峰島勇次郎、元は峰島勇という名前だったけれど……由宇の才能を認め自分の名前を与え、自分は2番手であるという表れで「勇次郎」に改名したと。
勇次郎は基礎知識とかを踏まえず独自のルートで答えを導く異才であった。そして由宇は、幼少期から秀でており……一般的な文法に則って峰島勇次郎の技術を説明することが出来た、と。
まぁその理論を一から十まで説明しようとする部分で尖ってるんですが。より分かりやすく解説できる横田健一氏の才能についても想いを馳せてしまった。やっぱり有能すぎるから1巻で消されたのでは……?
岸田博士が峰島勇次郎のゼロファイルを流した……パンドラの箱を開けた、この物語の始まりを告げた人物であるということが11巻で明かされたわけですが。
伊達に対して、由宇を信じ続けて毒のカプセルなんて必要ないと言い続けた善性の人であることも間違いがなくて。
その岸田博士が不在の時に彼の存在を通じて、伊達と由宇の関係が少し変化したの良かったですねぇ。
伊達は彼女を信じて今回は毒カプセルを注射しなかった。そして伊達の決断を見た由宇は、自らに課していた枷を外すことを告げた。
すなわち遺産技術、という彼女自身が抱え続けた武器を開放することを。かなり良い展開でしたねぇ。シリーズの集大成というか、最終局面だなぁと思わせる熱量があった。
マモンと八代が救助されたシーン、ヘリで吊るされることになったシーン微笑ましくて好き。……グラキエスに襲われてる状況なのであんまりほのぼのできる状況でもなかったですけど。
あとは僻地に配置されて燻りつつも認められるためにイワンの蛮行も見逃してきた司令官であるゴーゴリが、いろんな思いをのみ込んで「誇り高く戦い誇り高く死ね」と部下に命じたシーンは、彼なりの意地を感じて良かった。
規模の大きな作戦になるので、伊達が交渉によって勝ち取った「海星の恩赦」によって、動かせる兵隊が増えたのはありがたかったですねぇ。
合法で動けるようになったことでロシアの兵も動かせてましたけど。人手があるに越したことはないでしょうし。
遺産技術を開放しただけあって防刃スーツとか、市販の防犯ブザーの音データを書き換えてグラキエス対策にしたり、由宇が有能すぎる。由宇の的確過ぎる分析による指揮、凄まじかったですね……
ただ、善性の少女であるため犠牲を許容する作戦の指揮を任せるのは……というのを、かつてネズミを撃った八代が提案するの良いですねぇ。アドバンスLCの蓮杖とかが後半の犠牲が出るタイミングの指揮を請け負ってくれたのもありがたかった。良い人材が揃ってるな。まぁ優秀な彼らをして、由宇の指揮を模倣するのはかなりの難行だったみたいですが……。
さてそんな風に由宇やADEM陣営が奮闘している中で、闘真が何をしていたのかと思えば……。
洞窟のような場所で目覚め、峰島勇次郎と対面することになってるんだから、彼は彼でどんな運命の下に生まれてるんだ……って感じのイベントと鉢合わせてましたが。
世界の外側を覗きすぎたせいで、境界線を越えてしまったためにほとんどの人から認識できない状態になっているとか、マッドサイエンティストの極致ってすごいと思います。
実際に対面していたというよりは、夢のような世界で一瞬チャンネルがあった結果のようでしたけど。勇次郎と会った直後に記憶を取り戻したスヴェトラーナと出会ってるわけで、悪運尽きることなしって感じ。
終盤、麻耶や勝司たちが真目家と峰島勇次郎の繋がりだったり、峰島勇次郎の目的だった李……グラキエスで再現された脳についての考察だったりをして、情報を整理してくれたのはありがたかったですねぇ。
同時に、物語が終わりに向かっていっているのを感じてちょっと寂しくもありましたが。