「そう、ね……きっとこれが恋なんだわ」
(略)
「恋する人って、みんなこの苦しみを抱えているのね」
「苦しいけれどそれ以上に素敵なものよ。全てが輝いて見えるもの」
王家にも商品を卸す有力な商家ブルーム家の次女アリシア。
彼女自身は商人ではなく、国王直轄の図書館で働く司書であるようですけど。同僚にも恵まれ、家族仲も良好で平穏な日々を過ごしていた。
そんな中唯一と言ってよい懸念点が、家同士の話し合いで決まった婚約者であるトストマン子爵家の長男フェリックスとの婚約関係であった。
アリシアの方は含むところはなく良い関係を築けていたと思っていたものの……フェリックスは、貴族は貴族と付き合うべきという価値観の持ち主で。
フリッチェ男爵家の令嬢キーラと真実の愛を見つけた、と婚約関係を解消しようと言い放ってくることになって。
まぁその前から社交界で噂になっていて、アリシアの耳にまで入ってくるほどの状況だったわけで。フェリックスとキーラと対峙した時に、一筆書かせてるのは強かだなぁと思いました。
そう言われてあっさり一筆書いた2人が阿呆すぎるという話でもありますが。
そもそも婚約時の条件に「アリシアを唯一とし、尊重し誠実であること」を盛り込んでいたのに浮気してくるし。
この契約もどちらかと言えばトストマン家の方が利が大きかったというか。ブルーム家の援助を必要としていた側だったようですけど、長男がそれを理解してなかったのはなぁ……。あまりにも阿呆すぎて、完全に終わった話なのにいつまでもその縁に縋って度々登場してくるフェリックスには辟易しましたが。
婚約破棄によって傷ついたアリシアを心配してくれる友人に恵まれたのは、何よりでしたねぇ。
同僚のウェンディにも良い縁がやってきたようですし。この騒動をきっかけに、アリシアも「うまくやれると思っていた婚約関係」ではなく、自分の内から湧き出る確かな恋をすることが出来たわけですし。
阿呆と繰り返しエンカウントするのはアレでしたけど、主人公たちが幸せになっていく過程はとても良かったです。その盛り上げ役としては100点の仕事をしていた、とフェリックス君達を評価しても良い。